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​ 日本刀専門店銀座長州屋がご紹介する鐔、目貫、縁頭、小柄、笄、揃金具などの刀装具を種類別にまとめた商品検索ページです。基本的に価額表記のないものは売約済、もしくは非売品です。ご要望のお品がございましたら、お気軽にお問合せ下さい。(価額税込)

Copy right Ginza Choshuya

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千鳥図鍔(鐔) 銘 木国正喜〔印:上田〕

千鳥図鍔(鐔) 銘 木国正喜〔印:上田〕

Masayoshi

 木材の断面の模様のように鍛えた鉄の肌模様をくっきりと出す杢目鍛えは紀州藩抱工木田正喜が得意とした技法。その杢目肌に据紋象嵌された千鳥は目のみが金象嵌。千鳥は千取り(多くの物を取る)に音が通じる縁起の良い文様。風や波のようにも見える杢目鍛えを背景に、風船のようにふわりと浮かんで漂っている千鳥を眺めていると肩の力が抜けて自然と頬も緩む。

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330,000

雁透鍔(鐔) 無銘 尾張

雁透鍔(鐔) 無銘 尾張

Owari

鉄色黒々として大振り、厚手の堂々とした作である。荒々しく叩き締めた耳には小粒の鉄骨が散見され、骨太な透は上下、左右に対称形を成す。放射状に繋いだ雁金が、まるで絡繰り仕掛けのようだ。鍛え良く、力強い地鉄をすっきりと垂直に透かした明快な作行はいかにも尾張鐔然として好ましい。

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250,000

笠に俳句図鐔 銘 河野派(花押)

笠に俳句図鐔 銘 河野派(花押)

(Kao)

 旅姿の松尾芭蕉留守模様とした、洒落た風合いの鐔。銘は花押だけが、春明に代表される河(こう)野(の)派の作である。
渋い色合いの四(し)分一(ぶいち)地を打返耳に仕立て、置かれた笠と杖のみで旅の一場面を想わせる巧みな構成。

裏面には芭蕉の「物いへば唇寒し秋の風」の句が彫られており、表の図の種明かしとなっている。

四分一地の地面は穏やかな石目地に仕上げ。写実的な高彫に金赤銅素銅の色絵による笠と杖は細部まで精巧で、編み込んだ籐の様子も鮮明。

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150,000

山水図鐔 銘 染谷知信

山水図鐔 銘 染谷知信

Tomonobu

 江戸文人画で知られる谷文晁(たにぶんちょう)に絵画を学んだと伝える染谷知信(そめやとものぶ)(江戸後期文政~弘化)の、まさに山水図の境域を鐔面にて試みた、しかも独特の鏨使いによる妙趣が示された作品。

我が国の文人画は、古代中国の貴人が深山幽谷を理想郷とした社会風潮から生み出された山水画などが起源である。ただ、中国の絵画がそうであったように、我が国においても、土佐派や狩野派などの職業絵師による定型化した作品に対して、より自由な視点を求めたのが詩人や文人であり、その余技としての絵画、あるいは詩情を表現する手段の一つとして、既成概念にとらわれない素朴な絵画が求められ、一つの流れを生んだ。もちろん、我が国特有の四季が織りなす自然観が背景にあったことも、大陸深奥の切り立つ懸崖とは異なる鄙びた山水風景の表現につながっていよう。

 江戸の文人画家というと、池大雅(享保八~安永五)、与謝野蕪村(享保元~天明三)などがまず挙げられ、この鐔の作者知信の師とも伝える谷文晁(宝暦十三~天保十一)はその次代、浮世絵などが盛んに制作された化政期の活躍。絵画全体を俯瞰しても、同時期には酒井抱一、喜多川歌麿、歌川広重、葛飾北斎などが躍動しており、多様な視点からなる作品が世に問われていたのである。

 金工作品においても同様、古典的な観念で山水図を彫り描いた後藤家、俯瞰の視野を得意とした細野政守、日本的な情緒を求めた奈良派、長州鐔工などが独自の風景図を展開している。

その中にあって鏨使いに個性を見出した知信は、伊勢国津出身の金工染谷昌信の子と伝える。ただ、昌信には確たる作品がなく、知信の個性的な作風は絵画を学び突き詰めた末に自らが編み出した技法によるものと言えるであろう。

知信には古典的な山水図のみならず、富岳や二見ヶ浦、江の島など我が国の名所に取材した多様な図が遺されている。
 この鐔は、古典を手本としながらも我が国の風情を漂わせる美しい景観を捉えた作。いかなる山中に取材したものであろうか、あるいはまだ見ぬ大陸に思いを馳せ、理想郷として描き表したものであろうか。懸崖の連なる大陸の絶景とは異なる穏やかな山並みながら、わずかながら雲間に切り立つ山の端が窺いとれ、興味は否応なしに想像世界へと広がる。このように思い描く理想空間こそ山水画の本質であり、他の分野に視野を広げれば、古くからある盆景や盆石、盆栽などに求められる自然素材による創造空間にも通じるであろう。

 質素ながら品のある建物を水辺の近景に捉えたこの鐔は、わずか二分ほどの厚さの中に、豊かに茂る木々を経て雲に包まれた遥か彼方まで彫り表した知信の傑作。茅葺屋根の屋敷には山裾が迫り、地を這うような木々に包まれて一際清浄な空気のありようを感じさせている。

高床式に水辺に佇んでいるところも古風な山水図を想わせる要素で、池を風景の一部として控え目な構成としていながらも、子細に鑑賞すると池は背後にまで広がって湖水となり、遠く雲に交わっているように感じられる。微妙な抑揚によって表現されたその雲は、表裏表情が異なっており、表は湧き立つように動きが感じられる一方、裏面は空高くに流れる筋雲とされ、空気感の違いを表裏で描き分けている点も興味深い。

池の反り橋と小舟も庭園を、あるいは山水画を構成する添景で、これを眺める人物があることによって、古くは貴人や詩人が喧噪を逃れて理想郷を求めたという本来あるべき人間味を漂わせる景観が完成される。瀧もまた山水図に欠くことのない要素。滔々と流れ落ちる様子が、山の深さと豊かさを暗示している。屋敷の背後に迫る、紅葉が始まったと思しき山裾の様子は、この図において視線が誘導されるところであり作品の要と言えよう。銀を含ませた金により、華やかに過ぎることなく季節の移り変わりをそこはかとなく感じさせているのも日本的である。

 知信の技法の特徴に挙げられるのは、山肌や岩場、葉の生い茂った木々の、多様で個性的な鏨による濃密な打ち込み。これにより、文人画の一つの特徴でもある点描によって木々のざわめきを想わせる描写としているところ。岩肌の海風を受けて大小無数の洞が生じた状態、湖水に輝く陽の照り返しもまた微妙な鏨痕で表現している。

 素材は質の良い漆黒の赤銅(しゃくどう)地で、安定感のある竪丸形の高彫に仕立て、鋤き下げと鋤出しを交え、地面の微妙な仕上げ処理によって細やかな描写も巧みに大空間の遠近を表現している。独特の鏨使いは木々や岩肌だけでなく、茅葺の屋根や屋内、水面の細波、裏面では砂州の広がりなどの描写にも活かされている。色金は金、銀、素銅と控え目ながら、山を染める紅葉の描写には素銅の叢金(むらがね)や消(け)し込(こ)みの技法が駆使されており、これらが鏨の打ち込みと働き合って色調に変化を成し、美観の要素となっている。

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文様透図鐔  無銘 伝金山

文様透図鐔  無銘 伝金山

Kanayama

 金山(かなやま)鐔に間々見られる、様々な文様で耳と切羽台を繋いだ鐔。腰に帯びて障りにならないよう小振りに引き締まった真丸形に造り込まれた鉄地は、鍛えた鎚の痕跡が窺え、色合い黒く、ねっとりとした光沢があって強固な印象が魅力となっている。天地左右対称に配されている文様は、一ツ巴、丁子、一引両、小柄笄櫃の雪輪で、いずれも簡素で簡潔な布置からなり、戦国期実用鐔の典型作と言えよう。

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藤透鍔(鐔) 無銘 京透

藤透鍔(鐔) 無銘 京透

Kyo sukashi

 風に揺れる優美な姿と強い生命力を持つ藤。本作に見られるように藤紋は研ぎ澄まされた美しい意匠である。京透ならではの繊細で強靭な地透がこの洗練された意匠の魅力をさらに際立たせている。古刀匠や古甲冑師の鐔のように表側がこんもりと盛り上がった古風な趣の作である。

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楼閣透図大小鐔 大小 銘 武州住忠時

楼閣透図大小鐔 大小 銘 武州住忠時

Tadatoki

 楼閣と聞いて想像するのは「砂上の楼閣」ということわざであろう。しかし、負の意味合いを持つ楼閣図では、鍔の意匠として不適切であり、楼閣図には別に深遠なる寓意が隠されていると考えるべきであろう。

今から千年以上前に范仲淹(はん ちゅうえん)という北宋の政治家がいた。彼の特異な点は、儒教的価値観を如何に政治・社会に浸透させ、これを世に反映させるかという実効性を重視していた点である。

ある時、役人の滕子京(とうしけい)という人物が岳陽楼(がくようろう)という楼閣を修築し、友人である范仲淹に記念文の執筆を依頼したという。范仲淹は『岳陽楼記』と呼ばれる祝文を認め、左遷された滕子京を慰めるとともに、岳陽楼の修築完成を祝したという。この文中にあるのが「先天下之憂而憂、後天下之楽而楽」(天下に先んじて憂え、天下の人々が楽しんだ後に楽しむ)の一文である。

楼閣とは、遠方を見渡し、外敵を警戒するための要所であると同時に、次第に階位が上がる立身出世の象徴でもある。頂に立った者だけが目にすることのできる絶景は、地上の民草には決して垣間見えぬ景色であろう。しかし、楼閣の頂上から何を見るかでその人物の真価が決する。

江戸の鍔工、赤坂忠時が手がけた「楼閣図鐔」には、わずか数寸の金属面に、繊細な毛彫りで楼閣が刻まれている。注文主がこの鐔に託したのは、まさに『岳陽楼記』に記された士の理想と内省の精神であったのだろう。小さな鐔面に凝縮されたこの精神世界は、武士が日々手にする刀の一部として、彼の生き様を傍らから見続けてきたことであろう。

特別保存

300,000

蘭図鐔  銘 吉岡因幡介

蘭図鐔  銘 吉岡因幡介

Yoshioka Inabanosuke

 蘭は四君子にも数えられるように、気品と美徳を感じさせる佇まいから絵画の題材として好まれた植物である。この鐔でも、木蔭に咲く春蘭が繊細な描線と平(ひら)象嵌(ぞうがん)の組み合わせで華やかに彫り描かれている。造り込みは切羽台に比較して耳際が薄手の碁石形。極上質の赤銅地は、色合い黒々として光沢強く、耳に金の覆輪が廻らされて地面の黒を引き立てている。蘭の花は金、葉は微妙に色を違えた金の平象嵌と毛彫で繊細に表現されている。吉岡(よしおか)因幡介(いなばのすけ)は、後藤家と同様に徳川幕府に仕えた名流である。

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450,000

八重菊透鍔(鐔) 無銘 京透

八重菊透鍔(鐔) 無銘 京透

Kyosukashi

レース編みのように巧緻で美しい透模様。菊花形の鉄地のほとんどを地透としながらも歪みなく、幅1ミリにも満たない構成線は強靭な印象。ただ美しいというだけでなく、菊は高潔さや長寿を象徴してきた。不確かな時代を生き抜く武人の精神的な支えとなったかもしれない。京透鐔の中でも時代の上がる室町時代のものである。

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蕪に蝶図鍔(鐔) 無銘 江戸肥後

蕪に蝶図鍔(鐔) 無銘 江戸肥後

Edo higo

 蕪と蝶は古くから陶磁器や着物の文様として目にする画題である。不思議な取り合わせだが、古語で「頭」のことを「かぶ」と発音したことから蕪は出世の象徴。蝶は中国語でhudie。発音の一部dieが老年を意味する耋dieと音が通じることから長寿の象徴とされたという。
大振りの撫角形は鍛え良く、ゆったりとした趣。蕪は金の布目に銀の布目を厚く重ねた凝った仕上げ。手に持って角度を変えると銀の間からきらきらと金が覗く。踊るような葉は、葉脈に細かく金布目象嵌を施したものと葉先にぼかすように異なる色調の金で布目象嵌を入れたものの二種で表と裏、陰と陽を表す。打ち込まれた鏨が地紋のようにも見え、そこに薄く鋤き出された蝶が舞う。繊細な文様は三種の金による布目象嵌。江戸肥後とは、仙台出身の熊谷義之が江戸四谷に出て肥後細川家の抱え工となったことからついた熊谷一派の呼称。金銀の布目象嵌を多用した華やかな作風で人気を博した。四谷肥後とも呼ばれた。

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160,000

若松紋散図鐔  銘 東雲斎渡邊壽光作

若松紋散図鐔  銘 東雲斎渡邊壽光作

Toshimistu(Toryusai school)

 渡邊壽光(としみつ)は江戸後期に隆盛した東龍斎清壽の門人。木賊(とくさ)を耳に廻らした鐔、新趣の菊花尽し鐔、雪花文鐔、匂うような蘭の花を散らした鐔等(注)、写実味のある文様表現を得意とした名工。本作は、若松を組み合わせた繊細な線描写が美しい家紋散しの図。極上質の赤銅地はあらゆる光を吸収してしまうかのように色合い黒々として、金による家紋とは陰陽の対極にある存在。大粒に蒔かれた魚子は一糸乱れず整然とし、高彫された家紋はふっくらと丸みがあって上品、金の色絵が鮮やかに映えている。 
特別保存刀装具鑑定書
五十万円(消費税込)

注…いずれも『銀座情報』掲載品。

特別保存

500,000

花弁雁金透鐔 無銘 尾張

花弁雁金透鐔 無銘 尾張

Owari

 色合い黒々とした鍛えの良い鉄地の全面に細かな槌目を打ち施した真ん丸形。小肉のついた角耳の外周に浅い筋が見える。小判形の切羽台は上下がやや張り、耳よりも切羽台が薄くなる中低形。左右対称の意匠を垂直に透かす技法と共に典型的な尾張鐔の特徴を表している。中心に向かって四つの心葉形(猪目)を組み合わせ、対になった雁金で耳と繋いだ簡潔な意匠。優し気に見えるが強堅な鐔である。

特別保存

180,000

木瓜透鍔(鐔) 無銘 金山

木瓜透鍔(鐔) 無銘 金山

Kanayama

 小振りで引き締まった丸形に木瓜、十字、雁金を組み合わせた簡潔な透。叩き締められた強靭な地鉄には所々小粒の鉄骨が黒々と煌めく。茎穴の周囲を深く穿つ鏨跡は、衝撃を吸収するための実用上の工夫である。優し気な風情の曲線の中に実戦の厳しさを秘めた室町時代の作である。

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180,000

柳下牛図鐔  銘 羽州住宜(花押)

柳下牛図鐔  銘 羽州住宜(花押)

Yoshi (=Yoshitoki)

 放牧されている牛がのんびりと若草を食む農村風景、早春の一場面に取材した作。柳が明るい色合いの葉をひろげ、春霞に陽射しも柔らかい。鉄地を大振りに造り込み、表面には鍛えた鎚の痕跡を残して素朴な風合いを漂わせる。裏面の遠山と流れ下る小川、足元の川面まで薄肉の彫法ながら、山水の古法を採り入れた構成で遠近の様子を表現している。赤銅地高彫の牛も素朴。安藤宜時(あんどうよしとき)は半兵衛と称し佐藤珍久の高弟。奈良派に庄内金工の風合いを加味した作で高い評価を得ている。

特別保存

250,000

茶筅・茗荷・菊花・雁金繋透鍔(鐔) 無銘 赤坂

茶筅・茗荷・菊花・雁金繋透鍔(鐔) 無銘 赤坂

Akasaka

 深い色合いの鍛え良い鉄地は大振りで堂々とした菊花形。茶筅、茗荷、菊の花弁を雁金で繋いだ伝統的な赤坂鐔の意匠であるが、どことなくモダンな印象を受ける。それぞれの文様の大きさと配置の妙か。互いに交差するうっすらと肉を付けた菊の花弁が大きな存在感を放つ。

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135,000

芦雁図鐔  銘 浩然居光中(花押) 明治二巳夏應石澤影壽君需

芦雁図鐔  銘 浩然居光中(花押) 明治二巳夏應石澤影壽君需

Mitsunaka

 嚮山光中は鷲田慎吉と称し、多彩な色金を組み合わせた精巧で緻密な平象嵌を得意とした名工。この鐔では、鉄地を用いて晩秋の水辺の風情とし、抑揚変化のある地面を微細な石目地に仕上げて霧の起ち込めた中に主題が浮かび上がるように表現している。金朧銀の平象嵌と繊細な毛彫による芦は水に揺れるように、雛鳥を目掛けて舞い降りる雁もまた繊細な毛彫平象嵌で羽毛までも再現。裏面は芦のみで、穂を金と銀の平象嵌で描き分けているのも味わい深い。 

特別保存

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松樹騎馬菊水図鍔(鐔) 銘 法安

松樹騎馬菊水図鍔(鐔) 銘 法安

Hoan

 大振りで光沢のある鍛えの良い鉄地。自然光で見るとやや赤みを帯び、所々黒味の強い錆色を呈する。薄手の造りだが、耳には数条の合わせ鍛えの跡を見せる。腐らかし(*)の技法により独特の雅味のある薄肉彫りを得意とした法安。絹糸よりも細い線は、溶けて消え入りそうでありながら確かに存在し、時に激しく渦を巻き飛沫を上げる。関連性があるのかないのか、画面に散りばめられた紋様は、菊水、菊の葉、海老(髭が異様に長い)、松、騎馬人物である。菊、海老、松は不老不死、延命長寿の祈念であろう。疾駆する馬と手に長い棒状のものを持った人物は何を表しているのか。そもそも全てに意味を見出そうとする姿勢にも問題があるのかもしれない。光の当たり方で鮮明にも見える薄肉彫りは、陽炎越しに景色を見ているような不思議な感覚が心地良い。法安は山吉兵とほぼ同時代に活躍し、共に尾張における在銘鐔の先駆けとなった名工である。
(*)腐らかし 鉄鐔における彫刻技法のひとつ。文様のところに耐酸性の塗料を塗っておき、その他の部分を腐食させ、文様を浮き上がらせたもの。焼手腐らかし、腐食彫りともいう。

特別保存

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餌畚透鍔(鐔) 無銘 西垣

餌畚透鍔(鐔) 無銘 西垣

Nishigaki

 実に簡潔で端正な姿である。と同時にどこまでも広がってゆく伸びやかさも感じる。左右の大透は餌畚という鷹匠が使う餌入れである。鍛えの良い鉄磨地は表面にチリチリとうごめくような表情があり、耳に向かって穏やかに肉を落とす。透際を丁寧に処理した左右の餌畚はわずかに大きさが異なる。絶妙な加減で配された金布目像の唐草。不思議と見入ってしまう、肥後鐔の美点を体現した作である。元禄頃の西垣勘四郎の作であろう。

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180,000

十文字透図鐔  無銘 伝金山

十文字透図鐔  無銘 伝金山

Den-Kanayama

 小振りに引き締まった造り込みの、いかにも実戦の場を経てきてことを想わせる金山(かなやま)鐔。

切り込みを深く仕立てたことにより、また耳と切羽台を繋ぐ筋を設けたことにより、十字架を印象付ける作となっている。

鉄色黒く打ち鍛えた鎚の痕跡が明瞭に現れて姿が無骨であり、それが渋い光沢を放っていかにも強靭。耳だけでなく所々に色のさらに黒い粒状あるいは瘤状の鉄骨が現れており、これも大きな魅力となっている。

特別保存

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群鼠散図鐔  無銘 古金工

群鼠散図鐔  無銘 古金工

Ko-kinko

 実り豊かな秋の様子を文様表現した古鐔。

色合いに深みのある山(やま)銅(がね)地を縦長に造り込み、魚子地を縦に打ち施し、切羽台の周囲に魚子を廻らせているところなども古様式。

豊かさを明示する文様化された鼠、米俵、葡萄は躍動的な布置で、殊に鼠の姿が多様にしていかにも元気な様子で生命感に溢れている。葡萄や花にも古作に見られる意匠が窺える。

施されている金の色絵も擦れて時代を感じさせ、地位の高い武士の腰に備えられたものであることを窺わせている。

特別保存

350,000

古瓦草花図鐔  銘 加茂明祥(花押)

古瓦草花図鐔  銘 加茂明祥(花押)

Akiyoshi

 割れた古瓦の中に白虎楼の文字。白虎楼は内裏を守護する四神の一つとして朝堂院の西に建てられていた楼閣である。

古瓦と共に、草木に埋もれるようにあるその様子を彫り描いているのだが、蘭や桜草を添えることによって品位の高い場であったことを匂わせている。

鉄地を浅く切り込んだ木瓜形に造り込み、写実的高彫象嵌で宮城跡を鮮烈に彫り現している。

明祥(あきよし)は加茂神社の社家の出であったが金工を嗜み、長じて荒木東明に師事し、また中川一匠にも学んで技術を高めた名工。

特別保存

550,000

葦原に櫂図鐔  銘 明義(花押)

葦原に櫂図鐔  銘 明義(花押)

Akiyoshi(Mito)

 秋の水辺であろう、葦原に打ち捨てられた櫂を主題に、舟戦の跡を想わせる場面として彫り描いた作。

明義(あきよし)は正阿弥派の流れを汲む陸奥国会津の鐔工で、東北地方を歴訪した河野春明の門人。

鉄という素材を活かして、師風の洒落た景色を、精巧な高彫象嵌で表現するを得意とした。
この鐔も、抑揚変化のある石目地仕上げの鉄地で、霧か霞か気の立ち昇る風合いを巧みに演出している。
葦は金象嵌、櫂は赤銅象嵌で、印象深い風景を生み出している。 

特別保存

280,000

鶺鴒図鐔 無銘 知識

鶺鴒図鐔 無銘 知識

Chishiki school

 腰に帯びた際に障りないよう小振り縦長に造り込んだ、美しい図柄ながら実戦を考慮した鐔。赤銅地を石目地に仕上げ、水辺に餌を漁る鶺鴒(せきれい)を立体的な高肉に彫り描いている。地金は赤銅一色。砂地と空気感描写の石目地を微妙に違えており、松樹が霧に浮かび上がるような静けさに包まれた画面としている。薩摩金工を代表する知識(ちしき)派には、後藤家に学んだ知識兼置や知識兼矩などの名工がいる。

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160,000

帰樵図鐔 銘  佐嘉住乗道(花押)

帰樵図鐔 銘  佐嘉住乗道(花押)

Jodo

 佐賀金工乗道(じょうどう)の、金家を手本とした作(注)。鉄地を木瓜形に造り込み、耳を打ち返して景色を切り取り、地面には打ち込みによるものであろうか抑揚変化を付けて鄙びた空気感を演出している。山陰に見えているのは多宝塔。夕暮れ時の山道であろう、家路を急ぐ樵と一休みの態の旅人を、裏には、大徳寺養徳院の襖絵小栗宗湛筆帰雁図に倣った一場面を彫り描いている。いずれも高彫に金銀象嵌。金家の心象世界を映して独創的空間に仕上げている。

注…文献にみられる「佐賀金家」は、本作の如き作品を指すのであろう。

特別保存

250,000

違升透図鐔 無銘 古金工

違升透図鐔 無銘 古金工

Ko kinko

 室町時代の金工鐔。毛彫と鏨の打ち込みの技法で古風な文様を全面に施しただけの簡潔な仕立てが特徴。時を重ねて渋い色合いとなった素銅地は、整形した鎚の痕跡が全面に残り、毛彫や魚子地風の地文と影響し合って一際古調な風合い。総体の文様は梅か桜、あるいは桃であろうか、これに栗鼠を描き添えて生き物の生命、繰り返して訪れる季節、その自然の豊かさが表現されている。 

特別保存

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桜花繋透鍔(鐔) 無銘 尾張

桜花繋透鍔(鐔) 無銘 尾張

Owari

 錆色深く大振りで堂々とした鐔。小肉のついた角耳には筋状の鍛えの跡がある。左右対称に配された文様は桜繋。儚さ、美しさ、潔さ。桜が象徴する様々を武士もまた思ったことがあっただろう。

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220,000

海老獲猿図鐔 銘 長門萩住中井友恒

海老獲猿図鐔 銘 長門萩住中井友恒

Tomotsune

 中井善助友(とも)恒(つね)は毛利家に抱えられた長州鐔を代表する名工。山水や植物に題を得ることの多い長州鐔にあって、友恒の作は独創に富んで評価が高い。

水辺に垂れる老松の枝から海老に手を伸ばす猿猴に取材した図は、何を暗喩しているのであろうか、興味一入である。裏面は広々とした牧場に放された馬で、山陰には花が咲いて春の暖かさが感じられる場面。色合い黒い鉄地は石目地とされ、高彫に金、朧(おぼろ)銀(ぎん)、素(す)銅(あか)の象嵌を施した主題を浮かび上がらせている。

特別保存

350,000

近江八景図鍔(鐔) 無銘

近江八景図鍔(鐔) 無銘

Unsigned

 掌の中で名所を巡ることができる近江八景図鐔。魚子地の雲は大和絵のすやり霞さながらに異なる時間と空間を一つの画面に展開させる。魚子地によって磨地が更に黒々と艶めいて見え、金銀素銅の色絵が豊かに風景を彩る。波の表現も見事である。近江八景図は、中国北宋時代に成立した瀟湘八景図になぞらえて琵琶湖周辺の名勝八箇所を選んだもの。石山秋月、瀬田夕照、粟津晴嵐、矢橋帰帆、三井晩鐘、唐崎夜雨、堅田落雁、比良暮雪。この中に描かれている風景を見比べて探し出すのもまた楽しい。

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月下繋馬図鍔(鐔) 無銘 柳川派

月下繋馬図鍔(鐔) 無銘 柳川派

Yanagawa school

 銀色に輝くのは十八夜か、それとも十九夜の月であろうか。薄野原を照らす冴え冴えとした月明かりの下、馬が一頭草を食んでいる。裸馬ではあるが、放れ馬ではない。馬を繋ぐ綱は鐔の耳から裏側へまわり、朽ち木に括り付けられている。旅の途中であろうか、何か物語を感じさせる情景である。小肉のついた耳にまで撒かれた微細な魚子は整然として美しい。量感のある高彫の馬は、大きな目が印象的。柳川派の特徴を示す豊かな鬣と引き締まった力強い体躯をしている。柳川派の祖である直政は、横谷宗珉の直門。横谷式の赤銅魚子地高彫を得意とした。続く直光、直春、直連ら本家の頭領をはじめ門人達も代々その技を受け継いで栄えた。

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220,000

桐樹透鍔(鐔) 無銘 勘四郎

桐樹透鍔(鐔) 無銘 勘四郎

Kanshiro

 合わせ鍛えの跡が見られる大振りで厚手の変り形。黒味の強い地鉄が描く桐樹は屈曲し、花房は左右に揺れ、変化に富んでいる。葉脈や花房には毛彫が施され、笄櫃の内側には鏨の跡が顕著。又七の意匠を元に独創を加味した勘四郎の、松や梅、桐の変り形地透は、後に赤坂や土佐明珍にも受け継がれていった優れた意匠である。

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虫食葵唐草図鐔  銘 会津住忠衛門松村勝方(花押)

虫食葵唐草図鐔  銘 会津住忠衛門松村勝方(花押)

Katsukata

 古調な風合いを漂わせるものの、複雑に絡み合った葵唐草に新鮮な趣が感じられる作。鉄地をしっかりとした丸形に造り込み、土手耳に仕立てて虫食いを施し、全面に渋い色合いの山銅地からなる葵唐草を象嵌している。葵葉は総ての姿態が異なって動きがあり、そのふっくらと量感豊かに仕立てられた上に繊細な毛彫が活かされ、蔓先も勢いよく生命感に満ちている。会津鐔工松村勝方(まつむらかつかた)は忠右衛門と称する優工。 

特別保存

350,000

三聖吸酸図鍔(鐔) 銘 直丈

三聖吸酸図鍔(鐔) 銘 直丈

Naotake

 過剰と思えるほどの装飾だ。点景、背景、装束の文様が色味を変えた金象嵌で隙間を埋め尽くすようにちりばめられている。この作品の主題を装飾に埋もれさせて隠したがっているのではないかと思うほどだ。
 大振りの鉄地竪丸形の中央に薄肉彫りで酢の入った大甕を据え、それを囲むように釈迦(仏教)、孔子(儒教)、老子(道教)の三聖人が立っている。何やら楽しそうで、特に中央の釈迦は歯を見せて大笑いしている。「三聖吸酸(さんせいきゅうさん)」または「酢吸三教(すきゅうさんきょう)」と称されるこの図は、誰が舐めても酢は酸っぱいように、教義や宗教が違っても真理は一つであるということをわかりやすく表している。室町時代に中国から伝えられたこの図は禅画で好まれ、後に寺社建築の彫刻にも採られている。裏側は鋤き出された岩の間を清冽な水流が迸る。清らかな水の流れを遠近、高低で奥行きを出した金象嵌の草木が鮮やかに彩っている。
 武陽住と銘する直丈は、作品の類例は少ないが、本作の見事な象嵌技術や表情豊かな人物描写を見れば優れた金工であったことがよくわかる。

特別保存

280,000

雪輪に雪花文鍔(鐔) 銘 壽光(花押)

雪輪に雪花文鍔(鐔) 銘 壽光(花押)

Toshimitsu

 極々浅い打ち返し耳によって強調された、溶けかかった雪玉のような変り形。氷柱で覆われ、降り積もった雪の表面には薄肉彫りと高彫象嵌で美しい雪の結晶が描かれている。小柄櫃を縁取るのは雪輪文。江戸時代後期、古賀藩主土井利位(としつら)が雪の結晶を観察し、『雪花図説』にまとめ出版したところ、雪花文様(雪の結晶の文様)が大流行した。装剣小道具も大いにその影響を受け、一乗派や東龍斎派に雪花文を主題とした美しい作品があるが、本作からは凍てついた空気まで伝わってくる。渡辺壽光は東龍斎清壽の門人。風景から人物図まで師風をよく受け継いだ優れた作品を残した。

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結綿透鐔 銘 尾州山吉兵〔桜花刻印〕

結綿透鐔 銘 尾州山吉兵〔桜花刻印〕

Yamakichibei

 円弧の毛彫りに点刻、槌目を施した地造りは陰影に富み、信家の影響を色濃く感じさせる。左右対称の陰透は、耳長兎を連想させるが、真綿を紐で束ねた結綿(ゆいわた)を意匠化したもの。慶事の引き出物や神前への供物として使われた。本作は、銘に桜花の刻印を打つことから「桜山吉」とも呼称される三代目山吉兵の鐔。江戸時代中期を代表する尾張の鐔工として戸田彦左衛門、福井次左衛門とともに「元禄三作(または「寛文三作」)の一人として賞美されている。
特別保存刀装具鑑定書(耳長兎図鐔)

特別保存

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龍図鍔(鐔) 無銘 江戸肥後

龍図鍔(鐔) 無銘 江戸肥後

Edohigo

 鍛えの良い鉄地を撫角形に仕立て、抑揚変化に富んだ鋤き残し耳には真砂を思わせる金布目象嵌が煌めく。彼方の一点を見据え、雲をかき分け、天へ昇る龍。その体には厚く金が摺付象嵌されている。鐔の耳にも胴体の一部が見え、手の込んだ構成となっている。江戸四谷に居を構え、肥後細川家の抱え工となった熊谷家の作を江戸肥後、または四谷肥後と呼称する。甚吾の彫技を時代に即して進化させ、巧みな彫りに布目象嵌と摺付象嵌を多用した華やかな作風が当時の武士に好まれた。

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180,000

茶釜透図鐔 無銘 伝金山

茶釜透図鐔 無銘 伝金山

Den-Kanayama

 時代の上がる金山鐔の魅力の一つに、図柄を探るという面白さがある。

既に失われてしまった器物などの再発見。この鐔のように、櫃穴の周囲に茶釜を想わせる意匠を施しているところなどは、比較的判りやすいと言えよう。殊に茶に通じる図柄は好まれたようだ。

小振りに引き締まったこの鐔は、鉄色黒く渋い光沢に包まれており、素材の美観も透しと相乗して格別のものがある。耳と耳際の所々に穏やかな鉄骨(てっこつ)が現れている

特別保存

180,000

林和靖図鐔 銘 弘親

林和靖図鐔 銘 弘親

Hirochika

 梅と鶴を愛し西湖畔に庵を設けて独居したという宋代の詩人林(りん)和(あ)靖(せい)を、水戸金工独特の正確な図柄構成と精緻な鏨使いで彫り描いた鐔。

鉄地に高彫と鋤彫が鋭く、彫り際の線が立ち、表情豊かな人物描写も水戸金工ならではのもの。林和靖と子供の顔、佇む姿態、もちろん指先まで動感豊かに、しかも繊細。飛来する鶴の様子も、柔らか味のある羽毛に包まれているようで、ここも精密である。

川の流れが描かれた連続する裏面の描写も国名である。打越弘(ひろ)親(ちか)は善太郎と称し、弘壽の門人。江戸にも居住している。

特別保存

250,000

桜花五重輪散帆掛舟図鐔  銘 貞栄

桜花五重輪散帆掛舟図鐔  銘 貞栄

Tei ei(Sadanaga Hazama school)

独特の風合いを示す砂張(さはり)象嵌(ぞうがん)を駆使した間(はざま)派の鐔は、表裏違った図とされることが多い。
この鐔も、帆掛舟と桜の採り合わせで、同心円は春爛漫の空気感の表現と捉えるべきものか、鑑賞者の感性が問われる作品となっている。

鉄地に瀟洒な文様を彫り込み、砂張を象嵌する技法は鉄炮の装飾技術に始まると伝える。
本作も、熔けた砂張の収縮による微妙な凹凸が、自然な景色を生み出している。
近江国友村出身の貞栄(ていえい)は間派を代表する名工で、伊勢亀山、山城、下総と、主家に伴って各地で活躍している。

特別保存

550,000

花桐文図鐔 無銘 埋忠

花桐文図鐔 無銘 埋忠

Umetada

 清楚な花を咲かせる桐を題材に、埋忠(うめただ)明壽(みょうじゅ)の創案になる文様表現とされた作。

琳派の草創期を生きた明壽は、鐔の装飾を通じて独特の空間演出を完成させた。
その技術のみならず、実体を捉える感性においても一門の金工に伝授され、多くの美しい作品が生み出されるに至った。

碁石形に造り込まれた赤銅地のこの鐔は、細かな石目地仕上げとされて全面に華やかな光の散乱があり、片切彫と鮮やかな金平象嵌で風に揺れる桐の花房が一際冴えている。

保存

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三星図透鍔(鐔) 銘 於三州西尾國友正幸作

三星図透鍔(鐔) 銘 於三州西尾國友正幸作

Masayuki

 三星を表したと思われるこの鐔を初めて見た時、既視感を覚えた。似ている。バイオハザードマークに。既存のシンボルマークの何とも似ず、尚且つ印象に残るもの。バイオハザードマークを考案した時の条件である。出来上がったのちに歌舞伎役者坂東三津五郎の定紋三ツ大によく似ていることが判明した。
 頗る鍛えが良く、しかも厚い鉄地は鉄砲鍛冶を祖とする國友ならでは。砂張象嵌を得意とした間や國友の工人は何かしら人を驚かせる変わった趣向(*)を好む傾向がある。本作は摩訶不思議な全体の意匠もさることながら、透の内側を小刻みに削いだような鏨跡が目を引く。刻みの数に何か意味があるのだろうか。数えてみたが、深読みしすぎたようだ。やや小振りながら手強く引き締まった感のあるこの鐔は厚手で174gとかなりの重量がある。一体誰が、どのような刀に着けるために求めたのだろうか。
 國友正幸は、松平七人衆の一家である大給松平家十一代乗佑の移封に伴い三州西尾移り住んだ國友正命の女婿。赤坂風の透鐔、変り形、椀形など多様な作風がある上手である。
(*)過去の『銀座情報』掲載品にも石垣を模した印象深い砂張象嵌や椀形、洲浜形、筋立てした八角形の平地など独創的な作品が多数ある。

特別保存

180,000

唐花唐草文図鐔 無銘 古金工

唐花唐草文図鐔 無銘 古金工

Ko kinko

 唐草は、微妙に様子が違えども古くから全世界に存在する文様の一つ。蔓先を延ばして成長する様子が永遠の生命を暗示することから好まれたのであろう。想像の花である唐花を添えているこの鐔は、時代の上がる鐔に間々見られる特徴でもある横長に仕立てられた丸形の造り込み。地金は色合いに深みのある山銅地で、表面には微細な石目地を打ち施しており、強弱変化を付けた素朴な筋彫表現になる唐草と花を際立たせている。 

保存

150,000

清花図鐔 銘 武州住正恒

清花図鐔 銘 武州住正恒

Masatsune(Ito schoool)

 三友とも三清とも称して良いだろう、冬の陽だまりに咲く風雅な植物を題に得た作。江戸を代表する伊藤家の正恒(まさつね)は(注)幕府御用鐔工で、以降同家は幕末まで各代が要職にあった名流である。本作は、鉄地に植物を彫り描くを得意とした伊藤家の持ち味が良く示されている。肉厚くがっしりとした造り込みの地鉄を鋤き込んで高彫に仕上げ、植物の特徴を細部まで丁寧に彫り表わし、円窓から眺めているかのように耳を立てている。

注…「享保二年行年八十一歳」の年紀作があることから、寛永十四年の生まれ。

保存

120,000

地紙散図鐔  銘 義昌

地紙散図鐔  銘 義昌

Yoshimasa

 義(よし)昌(まさ)は(注)筑前の金工で、作刀も手掛けた巧者。金工作品では美濃彫風の秋草図鐔 (銀座長州屋旧蔵)などを遺している。

この鐔は素銅の寂びた風合いを古画風に活かした作で、八角の造形と耳に打返風の抑揚をつけているのも味わい深い。様々な場面を捉えた地紙を散らした図はいかにも日本的で洒落た風情がある。

各々の文様は鋤彫に片切彫、毛彫、赤銅と銀の平象嵌、金の色絵と多彩な技法を駆使したもので、義昌の高技量が窺える作となっている。 
保存刀装具鑑定書


注…筑前刀工信國義昌には初、二代があり、この鐔は天保頃の二代の作であろう。

保存

200,000

正月飾図鐔  銘 如柳(花押)

正月飾図鐔  銘 如柳(花押)

Jyochiku school

 如(じょ)柳(りゅう)は村上如竹の門人で、師の技術を受け継いで精巧な作品を遺している。正月飾を彫り描いたこの鐔が良い例で、漆黒の赤銅地を磨地に仕上げ、海老の地色を想定して量感のある高彫に素銅色絵とし、目玉は赤銅、手足の所々に金の色絵を微かに加え、全体に毛彫と三角鏨を打ち込んで甲羅の表情や手足触覚の動きを表現している。

注連縄、若松、裏面の竹と万両は、暖か味のある金、銀を含ませた色合いの異なる金、素銅、赤味の強い緋色(ひいろ)銅(どう)による平象嵌を駆使して繊細。勝栗と榧(かや)は高彫に金色絵。いずれも緻密な描写である。 

特別保存

450,000

文様散鍔(鐔) 無銘 平安城象嵌

文様散鍔(鐔) 無銘 平安城象嵌

Heianjo zogan

 そもそも犬が画題として取り上げられることが珍しい。しかも時代の上がる鐔に、である。画題としての犬は、じゃれあう仔犬や、座頭に絡む野犬、野晒とともに描かれる餓狼などが典型。本作のような猟犬が描かれるのは極めて珍しい。蓑笠を付けた人物の後を追う犬の全身から嬉しい楽しい気持ちが伝わってくる。絵風鐔への過渡期と考えられる作。引き締まった小振りの鉄地全体に展開する真鍮地高彫象嵌は、それぞれ関連性があるのか無いのか不思議な取り合わせである。しかも木賊を刈る人よりも巨大な海老やカマキリ、野菊など、何を基準としてそうなったのか、できることなら作者に聞いてみたい。現代の感覚では捉えきれない面白さが凝縮されている。実用の点からの不思議は小柄櫃に設けられた鉄地の当て金である。小柄のためなら柔らかい銅を用いた方が良いのではないか。全体の色合いを変えたくないという美観を追求してのことだったのだろうか。謎多き鐔の最大の謎を最後に。裏面の茎櫃周辺の一部に魚子が撒かれているのだ。赤銅魚子地の古金工や古美濃の鐔の切羽台には、試し打ちであろうか、稀に数条の魚子が撒かれていることがあるが、鉄地の切羽台に魚子が撒かれているのを初めて見た。滑り止め?どなたかご存知ならご教示願いたい。

保存

160,000

乗牛読書図鍔(鐔) 銘 米澤住重斯

乗牛読書図鍔(鐔) 銘 米澤住重斯

Shigenori

 牛の背に後ろ向きで座り読書する人物は、中国の隋末に割拠した群雄の一人、李密(582年─619年)。官職を辞し、史記や漢書を学んでいた時期の姿である。大振りの竪丸形は空間を贅沢に使い、ゆったりとした趣。うっすら鋤き出された雲が流れ、重なり合った唐松の高彫には金象嵌の松毬が輝く。なだらかに柔らかく盛り上がった李密と牛の高彫。牛の背にはうっすらと背骨が浮かび、読書に熱中する主人を気遣うかのように見上げている。
裏は寂びた余韻を残す楼閣山水図。会津住重斯、または米澤住重斯と刻銘した菊池重斯には、薪を背負って読書する朱買臣図鐔(銀座長州屋蔵)という作がある。「ながら読書」は学習意欲が庶民層にまで浸透した江戸時代後期の世相の表れかもしれない。

保存

170,000

秋草図鐔  銘 長州萩住幸光作

秋草図鐔  銘 長州萩住幸光作

Yukimitsu

 長州鐔工は植物の図を正確な構成で精巧緻密な高彫表現とするを特徴とした。磯部(五十部)幸光は源之充と称し、文久から慶応の年紀作を遺す名手。本作は、晩夏から初秋にかけて野を彩る植物を生け花のように巧みに組み合わせた、構成美に優れた作。いずれも肉高く彫り出して地を平坦に仕上げ、図の際を切り立つように仕立て花々をくっきりとさせ、微細な筋彫で葉脈を彫り表わし写実美を極めている。色金を用いなくても色彩が感じられる作品である。

特別保存

250,000

唐松繋図鍔(鐔) 銘 武州住吉正

唐松繋図鍔(鐔) 銘 武州住吉正

Yoshimasa

 慶事の特別な外装のために作られたのであろうか。青味を帯び、ずしりと重い上質の赤銅地の外周に菊花のような唐松文様を十三個繋ぎ置いた、目を引く意匠の鐔である。
 平地は丁寧な石目地仕上げ。唐松は、新芽と葉を真上から見て放射状にとらえ、中心を低くし、外側に向かって高さと厚みが増していく。中心は三星様の金色絵露象嵌が輝く。
 十三という数に何か意味があったのだろうか。縁日が十三日の虚空蔵菩薩(広大な宇宙のような無限の知恵と慈悲を持った菩薩)と何か関係があるのか。十三月が正月の異名であるとか、数え年十三歳の十三参り。十三を「とみ(富)」と読ませて縁起を担ぐなど。数にまつわるエピソードにも興味は尽きない。
鉄鐔の多い武州鐔にあって、上質の赤銅を厚く贅沢に使った本作はやはり特別の需に応えた作なのであろう。銘鑑に「松葉文透の鐔がある」という「透」は誤りで、本作のことを指していると思われる。

特別保存

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児島高徳図鐔  無銘 加賀後藤

児島高徳図鐔  無銘 加賀後藤

Kaga Goto

 元弘の変に敗れて隠岐に流されることとなった後醍醐天皇を救出すべく、闇に紛れて天皇行在所に忍び込んだ児島高徳だが、護りが固いため、桜の幹に「天莫空勾践(てんこうせんをむなしゅうすることなかれ) 時非無范蠡(ときにはんれいなきにしもあらず)」の詩を残して去った。天皇はこの文字を目にして勇気づけられ再起を図ったという。
 赤銅魚子地を闇夜に見立て、満開の桜を前に筆を手にする高徳の姿を極肉高に彫り出し、金銀の色絵を濃密に施し、高徳の厳しい表情をも精密に再現している。加賀前田家仕え、交代で金沢に居住した後藤覚乗や従兄弟の顕乗等は、加賀後藤と呼ばれている。

特別保存

600,000

鳩に鏃図鍔(鐔) 銘 後藤光久(花押)

鳩に鏃図鍔(鐔) 銘 後藤光久(花押)

Mitsuhisa

 切込みの浅い木瓜形を打ち返し耳とした一乗派が得意とする造り込み。陶板のように光沢のある鉄地には鳩と鏃の高彫象嵌。空には棚引く雲が金と赤銅の直線で簡潔に表わされている。写実的な鳩と鏃との異なる表現方法が興味深い。鳩は八幡宮を、弓矢は八幡太郎義家、あるいは武士そのものを連想させるが、本作は弓矢ではなく散らばった鏃である。一乗派には朽ちた木材や古瓦を散らし置いた図の鐔がある。光久も得意とした画題で、動乱の時代の影響か、無常観や寂寥感、郷愁を誘う。制作年はわからないが、本作もやはり世情を反映して、一つの時代の終わりを暗示しているのではないか。そう考えると大和絵風の雲にも何か含みがあるようにも思われる。光久は後藤一乗の兄是乗(光凞)の子で治左衛門家の六代目を襲った。一乗に似た作風の上手である。

特別保存

230,000

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