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​ 日本刀専門店銀座長州屋がご紹介する鐔、目貫、縁頭、小柄、笄、揃金具などの刀装具を種類別にまとめた商品検索ページです。基本的に価額表記のないものは売約済、もしくは非売品です。ご要望のお品がございましたら、お気軽にお問合せ下さい。(価額税込)

Copy right Ginza Choshuya

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百事如意図鍔(鐔) 銘 辛未冬月 洛北鷹峰居 幽斎安達雕 □□書 〔金印〕

百事如意図鍔(鐔) 銘 辛未冬月 洛北鷹峰居 幽斎安達雕 □□書 〔金印〕

Yusai

 百合(若しくは百合根)と柿の実、霊芝を寄せたものを「百事如意」と呼び、全てが意のままであることを意味する。百合と柿の文字と音を「百事」に通わせ、霊芝は形が如意棒に似ていることからの取り合わせ。富岡鉄斎、滝和亭、椿椿山ら文人画家、南画家にも好まれた画題である。金工は概して多芸、多趣味で教養のある人が多い。安達幽斎も例に漏れず、書画を得意とし、謡曲、琵琶、弓術を嗜んだ。すべすべとした鉄磨地は一乗派特有の打ち返し耳で竪丸形に造り込まれ、耳そのものは中央を窪ませすっきりとした印象。表側に写実的な表現による高彫据紋象嵌の柿、百合根、霊芝が配されている。金銀素銅赤銅による彩が鮮やか。裏側は「百事如意」の文字が彫られている。安達幽斎は和田一真の高弟。

特別保存

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遠山松透鍔(鐔)無銘 二子山

遠山松透鍔(鐔)無銘 二子山

Futagoyama

 可愛らしい茸のような小透(蛇足であるが総数十三個)は、松である。これは「遠山松」といわれ、剣を構えた時に一本一本の木にとらわれないで山の全体を遠くから見るように相手を見るという柳生新陰流の教えを表す。鍛えの良い鉄地はほぼ真丸形。切羽台より耳の方が厚くなる中低の造り込み。小肉の付いた耳には所々小粒の鉄骨が表れている。柳生は尾張や大野、三代の桜山吉など、当時の尾張鐔工に鐔を作らせたと言われている。二子山と極められた本作。二子山岩田則亮は技量高く、写し物も得意とした。柳生写しも製作し、高い評価を得ている。本作も本歌に迫る作風を呈した優品である。

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波龍図鐔 銘 藻柄子入道宗典製 江州彦根住

波龍図鐔 銘 藻柄子入道宗典製 江州彦根住

Souten

 手に持てばずっしりとした重みを感じる赤銅地は耳を含め全面に高低変化に富んだ波を彫り込んでいる。 金銀露象嵌の飛沫を撒き散らし、波頭が鬩ぎ合う大海原を悠然と龍が渡る。紋高く引き締まった体、鋭い爪、海をも飲み込む勢いで大きく開けられた口からは大気を揺るがすような咆哮が聞こえそうである。
 製作当時から現在まで人気の高い宗典の作には大まかに分けて二様ある。最も多いのは鉄地肉彫地透に華やかな色絵象嵌を施し、パノラマ的視野で情景を彫描いたものである。
 もう一方は板鐔に立体的かつ詳細な高彫象嵌色絵を展開するもので、この手のものは作品が少なく、また良作が多い。本作のような赤銅地のものは更に希少で、恐らくは依頼を受けて製作したものであろう、迫力満点の入念作である。

特別保存

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史記 鴻門の会・樊噲図鍔(鐔) 印銘 常重

史記 鴻門の会・樊噲図鍔(鐔) 印銘 常重

Tsuneshige(Nara school)

 常重は奈良重次の門人で奈良利重の孫弟子。真鍮石目地撫角形の鐔に和漢の人物図を彫るを得意とした。鴻門の会で謀殺されようとしている劉邦を助け出そうと駆けつける樊噲を描いた本作が正に常重の真骨頂である。明るい真鍮地の全面に細かく石目を打ち施し、帳には雲龍を片切彫りと毛彫で描く。盾を抱きかかえて駆け付けた樊噲は耳から裏面にかけても展開する緻密な描写の鋤出高彫。秀でた額の奥の眼光鋭い眼差し、高い頬とそこからそよぐように広がる髭は繊細な毛彫。奥行きのある高彫は要所に金銀の色絵を配し、衣や毛沓それぞれの質感を的確に表している。単なる情景描写ではなく、誠実で豪胆な樊噲の人柄をも活き活きと彫描いている。同作中の傑出作と言い得る。

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文様(七宝繋文)透鍔(鐔)

文様(七宝繋文)透鍔(鐔)

Ko-tosho

 円や楕円を上下左右、四方に重ねて作った文様を七宝繋文という。元は四方繋と呼ばれたものが仏教の七宝にかけて七宝繋文になったという説がある。四方に限りなく広がっていくことから繁栄を意味し、吉祥文として喜ばれ装束や器物に用いられた。その七宝文の一部を小透とした本作。全てを克明に表すのではなく、一部のみを見せて鑑賞者の想像力を求める心憎い手法である。俗な言い方をすれば「チラリズムの美学」であろうか。叩き締められ陰影深く表情豊かな地鉄は色合い黒々として鍛え良く、耳に向かってやや肉を落とす。視覚と触覚で実用の時代の厳しさと装飾への芽生えを感じたい。室町時代に使用されたそのままの無櫃の作で、まさに一刀一鐔を物語るものであろう。

特別保存

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菊花透図鐔 銘 武州住赤坂忠時作

菊花透図鐔 銘 武州住赤坂忠時作

Tadatoki

 大輪の菊花を鐔全面に意匠した赤坂五代目忠時の作。赤坂鐔の醍醐味は、独特の意匠からなる曲線構成の透かしが生み出す景色にある。菊花形耳のバランスが良く、葉もまた大胆に花に重ね添えて変化に富み、透しも自然な曲線を成し、殊に花の先端がくるっと曲がった様子が美しい。色黒くねっとりとした光沢がある地鉄、わずかに碁石形に仕立てられたなだらかな地面、そこに施された微かな毛彫。いずれも赤坂美の要素として完成している。

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七夕図鍔(鐔) 銘 春明法眼花押 嘉永辛亥初秋

七夕図鍔(鐔) 銘 春明法眼花押 嘉永辛亥初秋

Haruaki

 夕映えの空を思わせる素銅磨地。撫角形の中央を絞った印象深い造形はどことなく糸巻にも似て、鐔全体で織姫を連想させる。打ち返し耳に敢えてかかるように三日月を配し、わずかに鋤き出して石目地を施した橋の傍らに二羽の飛翔する鵲を赤銅地高彫象嵌して七夕伝説を表した、春明の心憎い洒落た画面構成である。春明は柳川直春の門人。独立後はたびたび東北を訪れ、出張制作をした。漂泊の俳人、絵師など地方の裕福な商人や地主などに請われ、その土地へ赴いて制作または指導をした松尾芭蕉や与謝蕪村のように、春明もまた北国へ赴いたのであろうか。旅による制作への刺激も多かったことだろう。会津金工の明義や明周、田辺伴正、田辺明伴、大石明親など優れた門人も養成した。晩年の弘化、嘉永頃は越後地方を遊歴。嘉永辛亥(1851年)初秋と刻された本作は越後にて制作されたものであろう。

特別保存

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鶴亀図透鐔 銘 武州住赤坂彦十郎忠時

鶴亀図透鐔 銘 武州住赤坂彦十郎忠時

Tadatoki

 引き締まった竪丸形の地鉄は厚手で茎櫃穴や透に合わせ鍛えの痕跡を見せる。蓑亀の蓑がそのまま鶴の翼に繋がり、互いの顔が対称の位置にある鶴と亀は阿吽の吉相。半月型になった鶴の目が微笑みを湛えているように見える。左右に大きくとられた空間は巴を形作って陰陽を暗示している。長寿のシンボルである吉祥文の鶴亀透。朗らかで生命力に満ちた作である。

特別保存

250,000

化粧道具図透鐔 無銘 京正阿弥

化粧道具図透鐔 無銘 京正阿弥

Kyo-Shoami

 鍛えの良い深い錆色の鉄地を真丸形に造り込み、切羽台を斜めに横切って鏡台を配し、周囲に化粧道具箱、盥、鏡を肉彫り地透かしとした洒落た感覚の鐔。京正阿弥の技を駆使した華やかな布目象嵌が目を引く。化粧は女性のみがしたもの、と思ってはいないだろうか。実は戦国時代の武士は化粧をすることがあった。権威や身分の高さを示すため、豪胆で勇猛果敢に見せるためである。有名な『おあむ物語』では討ち取った首の身分を高く見せるため少女達が化粧を施す場面が語られている。それはさておき、本作は立体感のある肉彫りで器物の表と裏をしっかりと描いている。特に盥と化粧箱の円やかな曲面は見事。鏡には三ツ巴紋が銀象嵌されている
(昭和47年発行の特別貴重刀装具認定書では無銘 正阿弥一郎兵衛政徳と鑑定されている。)

特別保存

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李白観瀑図鐔 銘 南洋子暉真(花押)

李白観瀑図鐔 銘 南洋子暉真(花押)

Kishin

 暉真はかつて酒井抱一と同一人物と誤認されていたこともある。抱一の字(あざな)が暉真だったことが原因であろうが、品格を感じさせる作風や独創性、技量の高さから真実味があったのであろう。大振りの朧銀磨地を端正な撫角形に仕立て、耳は浅い打ち返し。松の大木の下、立ち去りがたく振り返り、遥か上方の滝を仰ぎ見る人物は李白である。いつも傍に控えている酒壺を持った侍童はもう先に歩いて行ってしまったのだろうか。詩仙李白の有名な詩「望廬山観瀑」に因んだ「李白観瀑図」は装剣小道具に限らず好画題とされ幾つかのバリエーションが見られる。そのほとんどが一人、または侍童と共に滝に向って立っているもので、本作のように振り返っているものは珍しい。渓流の岩や水の表現に独特の鏨使いが見られ、ゆったりとした衣を纏った李白の高彫は、衣の中に確かに肉体があると感じられる。

特別保存

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月下牧童図鐔 銘 奈良正幸花押

月下牧童図鐔 銘 奈良正幸花押

Masayuki

 江戸時代中期、横谷派と共に金工界の二大潮流となった奈良派。人物にしろ、動植物、風景にしろ、どこか郷愁を感じさせる温かみのある作風が特徴である。正幸はその奈良派の江戸時代中期に活躍した金工。牛の背に揺られ家路につく牧童。ふと仰ぎ見た先には雲間から覗く三日月。主を乗せた牛に目を転ずれば、何だかとても水が飲みたいようである。月の光を最もよく表現できる四分一地に銀を平象嵌した三日月。的確に特徴を捉えつつもくどさのない、いかにも奈良派らしいのびやかな線の松。肉置豊かな高彫の牧童も牛も詳細かつ丁寧な描写だが、見る者に緊張を強いることのない柔らかな雰囲気がある。要所に散らした下草の描写は安親のそれによく似ている。奈良派は、奈良三作と呼称される利壽、安親、乗意の三巨匠と、更には後の金工界に一大勢力を築き上げた政隨をも輩出している。

特別保存

230,000

梅樹透大小鐔 大銘 作州津山住正利 小銘�� 作州住正利

梅樹透大小鐔 大銘 作州津山住正利 小銘 作州住正利

Masatoshi

 中心を深く掬い取ったような花弁が特徴的な可憐な梅花の縁は金銀の象嵌で飾られている。蕾はふっくらと丸く、洞のあるごつごつとした木肌の表現は詳細で写実的。肉置き豊かな彫は、地を垂直に透かしていることですっきりと垢抜けた印象である。高低変化に富んだ配置が奥行きのある画面を作り出している。鍛えの良い地鉄の深い錆色も好ましい。
 正利は美作国津山の抱工。江戸詰の鐔師として参両壱分弐人扶持を支給された。(天保十一年二月刊行『津山藩分限帖』より)武州伊藤派の正常に学び、正親や正幸に有縁。

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文字透図鐔 無銘 尾張

文字透図鐔 無銘 尾張

Owari

 文字を意匠化した透鐔は、尾張、金山鐔に比較的多くみられる。中低になった大きな小判形の切羽台を挟んで上下に「生」、左右に「朱」を対称に配した本作。叩き締められ強みのある地鉄は耳に粒状の鉄骨を現している。文字の先端を剣や雁股の鏃の形に意匠した明瞭簡潔で力強い透。「朱」は古来より強い生命力や魔除けを意味する色。作者はどんな思いを込めてこの鐔を作ったのであろうか。そして使用者は…。

特別保存

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雨龍図鐔 無銘 甚五

雨龍図鐔 無銘 甚五

Jingo

 志水甚五と極められ、その個性が溢れた渋い風合いの鐔。鉄地を泥障形に造り込み、表面に鍛えた鎚の痕跡を遺して雲の起ち込める天空に見立てたものであろう、素材が呈する景色が迫力に満ちている。土手耳とせず、耳際に銀布目象嵌を施し、龍神は甚五の作品に間々みられる強く草体化したもので巴状の構成。薄肉に彫り込まれて銀の布目象嵌が施され、その消え入りそうな様子や、時を重ね黒化して地鉄と混じり合った様子も甚五の魅力。甚五の極めは初二三代に用いられ、後代は甚吾とされる。

特別保存

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渦巻文唐草文図鐔 無銘 古金工

渦巻文唐草文図鐔 無銘 古金工

Ko-kinko

 如何なる拵に装着されていたものであろうか、古調で簡素な鐔。素銅地の地面には鎚で仕立てた痕跡が明瞭に遺されており、その表にのみ渦巻文が点刻の連続で散らされている。櫃穴横の小穴は鐔留めであろう。鎚による皺と渦巻と、小穴が妙なる景色を成している。色合いに一際深みのある土手耳は山銅による覆輪構造で、躍動感と生命感のある唐草文が片切彫で廻らされている。

特別保存

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龍透図鐔 銘 越前大野住赤尾甚助作

龍透図鐔 銘 越前大野住赤尾甚助作

Jinsuke

 越前国大野にて活躍した、赤尾甚助の迫力のある龍神図。円形に意匠された龍神は、龍神が追い求めている珠玉を透かし通して見ている構成。カラカラと音が響きわたるかのような鱗に包まれた身体を、わずか数ミリの厚さの中に立体的に彫り表し、鋭く尖った爪で宙を摑む様子、抑揚のある頭から深く窪んだ眼窩、辺りを探る触覚、大きく開いた口、総てに力感が籠った彫技とされている。鉄色黒く光沢があり、一部に穏やかな鉄骨(てっこつ)が窺える。

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雛人形図鐔 銘 吉岡因幡介

雛人形図鐔 銘 吉岡因幡介

Yoshioka Inabanosuke

 萌え出たばかりの野の草を摘み、浜辺では蛤などの海産物を採る。早春の野遊びは、自然の産物を体内に摂り入れて長寿を願う桃の節句の伝統的風習で、邪気を払うと伝えられる桃の花を飾ったのも無病息災を願ってのものであった。現代の内裏雛は江戸時代に隆盛した様式。この鐔に描かれている簡素な雛人形は、室町時代から江戸初期にかけてのもの。彫り描いたのは、幕府の御用を務めた吉岡因幡介。極上の赤銅地を磨地に仕上げ、赤金と青金に色を違えた金を平象嵌し、毛彫りを加えて主題に生命を与えている。

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釣鐘透鍔(鐔) 無銘 金山

釣鐘透鍔(鐔) 無銘 金山

Kanayama

 この釣鐘はお寺の梵鐘か、それとも合戦の合図に使う陣鐘であろうか。叩き締められた鍛えの良い鉄地はほぼ真丸形。その円の真ん中に大きく釣鐘を透かし残した意匠は金山鐔の独壇場。小振りで引き締まった力強い造形の中に見事に収まっている。色合い深い錆色の中に更に黒く小粒の鉄骨が煌めいている。

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菊花透鍔(鐔) 無銘 古金工

菊花透鍔(鐔) 無銘 古金工

Ko kinko

 菊花透は秀逸なデザインだが、透の幅の広狭で受ける印象がまるで違うのは面白い。切羽台の片面を深く掘り下げて空隙を作ったのは切羽同様に衝撃を吸収するためであろう。素朴で温かみのある山銅地には数百年の時が降り積もり濃淡様々な表情を見せる。室町時代の腰刀に装着されたものである。

特別保存

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芦雁透鍔(鐔) 銘 忠重作

芦雁透鍔(鐔) 銘 忠重作

Tadashige (Akasaka school)

 肌鍛えと呼称される、鍛えた鉄の様子が表出された地造の技法がある。作為的な部分と偶然による思いがけない効果が生まれ、一種独特のニュアンスを表現に加えることができる。忠重もままこれを用いた。大振りで厚手、重量感のある鉄地は鍛え良く、細かな縞状の線が耳を廻り、やがて鐔の形なりに流れる。大気を表すかのような鍛えの線は、同時に額縁のように描かれた世界を強調する。肌鍛えの線と同調し、互いを追っているかのように展開する雁と芦。対象をそれとわかるぎりぎりまで簡潔に意匠化した陰透は洗練された彫口ですっきりとしている。茎穴の周囲には特徴のある寄鏨がありここも忠重の作品の見どころである。

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鞭図透鍔(鐔) 銘 豫州松山住 正阿弥家正

鞭図透鍔(鐔) 銘 豫州松山住 正阿弥家正

Iyo shoami schoo;

 落ち着きのある明るい色合いの真鍮地を大振りな六ツ木瓜形に仕立て、馬具である竹製の鞭を肉彫り地透とした作。角張ったところが一つも無く、動きの感じられる曲線で構成されている。作域が広く、進取の気風に富んだ豫州正阿弥派。その一特徴である、骨太で優れた意匠の典型作である。

特別保存

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河骨に蛙図鍔(鐔) 無銘

河骨に蛙図鍔(鐔) 無銘

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 初夏から夏の終わりにかけて可憐な黄色い花を咲かせる河骨。今、一匹の蛙がその葉に跳び乗り、静かな水辺の風景が一瞬揺らいだ。
落ち着いた四分一地にひときわ艶やかな漆黒を呈する赤銅を量感のある立体的な高彫としている。金、四分一、素銅と鮮やかな色金を用いているが、中でも明るさと濃さに変化をつけた素銅の色絵が効いている。丸くふっくらとした河骨の蕾が愛らしい。手のひらに収まるほどの、小さいけれど深く広い世界に心を遊ばせてみよう。

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笹に井桁図鍔(鍔) 銘 間

笹に井桁図鍔(鍔) 銘 間

Hazama

 笹に井桁とは、名水、名酒を連想させる画題である。表側に笹、裏側は井桁と表裏の図柄が異なるのは大いなる間鐔の特徴。予め紋様を彫り込んだ鉄地に銅と錫を主体とした合金を溶かして流し込む砂張象嵌は、光線の具合で紋様の見え方が変わるところが面白い。手に持って角度を変えながら眺めれば、時に沈み、時にはっきりと浮かび上がる。鋭く艶やかな笹の葉と画面中央近くに大胆に据えられた井桁では砂張の表現手法も異なる。井桁の象嵌の、地表に流れ出て冷え固まった溶岩のような激しい凹凸は迫力満点。視覚と触覚両方で感じて鑑賞してほしい。間は伊勢国亀山の鐔工。この地には江州国友村の鉄砲鍛冶やその関連の工人が移住して銃身製作の技術を生かし、特徴的な砂張象嵌の鐔を創始したという。

特別保存

400,000

阿弥陀鑢桜透鍔(鐔) 銘 戸田彦左衛門

阿弥陀鑢桜透鍔(鐔) 銘 戸田彦左衛門

Hikozaemon

 尾張鐔工元禄三作の一人に数えられる戸田彦左衛門。本作は、ほぼ真丸形の鉄磨地を碁石形に造り込み、微細な阿弥陀鑢地に小透を配して極めて細い打ち返し耳とした彼の典型作である。尾張鐔工らしい鍛えの良い鉄地は深い錆色を呈し手強い印象。洲浜を思わせる陰透の中に極めて細い線で桜花を地透とした洒落た意匠である。この繊細な透は鍛えの良い地鉄があってこそ。極細の打ち返し耳が全体を引き締めている。

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諫鼓鶏図透鐔 銘 江州彦根住 藻柄子宗典製

諫鼓鶏図透鐔 銘 江州彦根住 藻柄子宗典製

Soten

 諫鼓とは、古代中国の聖天子堯が、その施政に関して諫言しようとする民衆に打たせるために設けた太鼓で、鶏は鶏鳴によって善政を促し、人々を覚醒させる想像上の鶏である。諫鼓鶏とは、君主が善政を施すので諫鼓を用いることもなく苔が生えてしまい、鳥が鼓の音に驚くこともないという、世の中が良く治まっていることのたとえである。 中心に松と竹を据え諫鼓の上に鶏が乗り、周囲では母鶏と雛が遊ぶ長閑な風景である。舞台美術を見るように奥行きを感じさせ、流れるように展開する宗典独特の空間構成はここでも健在である。立体的な肉彫りは、厚さや太さを明確に変えてメリハリをつけ、金銀素銅の本象嵌で色彩豊かに彩られている。表裏のちょっとした変化も面白い。地面を啄む銀の雛は裏面ではお尻がほんの少し見えているだけ。何とも愛らしく、作者の遊び心が感じられる。「諫鼓苔深く鳥驚かぬ」。天下泰平の象徴であり、またそれを希求する心の表れか。この図が刀の鐔にあるという事に意義がある。

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楓散図鐔 銘 皇都住義照花押

楓散図鐔 銘 皇都住義照花押

Yoshiteru

 表になり裏になり、ひらひらと風に舞い散る楓。その一瞬を鮮やかに切り取った美しい作である。陶器を思わせる質感の鉄磨地。大振りでゆったりとした障泥形は見落としそうなくらい僅かな隅入りとなっている。薄く仕立てた耳にまで彫刻された楓の葉。表側は薄肉彫り、裏側は地を鋤いて、表裏を巧みに描き分け、詳細で繊細な毛彫を加え金布目象嵌で彩られている。鉄という固い素材に軽やかさ、柔らかさを表現し得るのは作者の卓越した観察眼と技術力、感性の豊かさ故であろう。謡曲を好み、狂歌を得意としたという。佐藤義照は始め荒木東明に学び、後に後藤勘兵衛家光文の弟子となり、独立開業した。帯刀を許され、明治維新後は大坂造幣局に勤め、国内外の博覧会で数々の賞を受賞し、宮内省御用となった作も多数ある。

特別保存

450,000

埋木図鐔 銘 光忠

埋木図鐔 銘 光忠

Mitsutada

 本作はあたかも埋木を地中から掘り出し、磨き上げたかのような鐔である。量感のある赤銅地のごつごつとした土手耳、美しい木理を鋤下彫と毛彫で表し、切羽台には鏨運びに特徴のある二字銘が刻まれている。半ば炭化した埋もれ木は工芸品や燃料として用いられたが、反面、世間から顧みられなくなった人の喩にも使われる。幕末の大老井伊直弼がまだ捨縁であった若き日の居所は「埋木舎」といった。果たしてこの鐔にはどんな意味が込められているだろう。この光忠は、銘形は古埋忠の光忠に似ているところもあるが、作風が異なる。それにしてもユニークな感性とそれをまとめ上げる力を持った金工であったことは間違いない。

特別保存

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海浜風景図鐔 銘 乙未春日 園部芳英花押

海浜風景図鐔 銘 乙未春日 園部芳英花押

Yoshihide

 潮の引いた砂地に露になった四爪の大きな鉄錨。赤銅魚子地になんと鉄高彫を象嵌しているのだ。一見後藤風を謹直に継承しているようで、芳英は形状や細部に独創とこだわりを見せる。得意の変り八角形は碁石のように耳に向かって肉を落とし、その耳には微細な魚子を撒き散らしている。魚子地は何か特殊な仕上げを施しているのかもしれない。青味を帯びた上質の赤銅磨地と魚子地を巧みに配した地造りに極めつけは鉄の象嵌である。帆柱が並ぶ波穏やかな船泊、よくある海辺の風景のようだが、彼方の島は伝説の蓬莱島(注)ではなかろうか。微細な点刻の底に金を施した光に包まれた島は松の木々に縁どられ、遠くの島影は素銅の消込象嵌。手前を飛ぶ鳥は高彫色絵、彼方の鳥は平象嵌と遠近に工夫がみられる。園部芳英は田中芳章門人の園部芳継を父に持ち、父同様に後藤流の格調高い精巧な彫法を得意としているが、鉄地の扱いにも長けていて優れた作を残している。本作は芳英のユニークな一面と技量の高さを余すところなく伝える優品である。
(注)古代中国の道教思想で、東の海上にあるとされた不老不死の仙人が住むという蓬莱島。これは筆者の主観で、芳英は遠くに霞んで見える富士山と海上の島を描いたのかもしれない。富士山は別名「不死山」ともいうが。

特別保存

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朱買臣図鐔 銘 菊池重斯

朱買臣図鐔 銘 菊池重斯

Shigenori

 上質な赤銅地を大振りな竪丸形に造り込み、耳にまで微細な魚子を打ち施した入念作。くっきりとした魚子地とそこから浮かび上がる赤銅磨地高彫の対比が面白い。空間構成の巧みさでゆったりと大らかな雰囲気が漂う。
柴を担ぎ歩きながら読書する姿は二宮尊徳を彷彿とさせるが、人物の出で立ちは中国のもの。この人は前漢武帝の時代の官僚朱買臣。生家は貧しかったが読書好きで、五十を過ぎてから役人として登用され、出世と挫折を繰り返し丞相長吏となった。「朱買臣五十富貴」といって大器晩成、立身出世のたとえにされている。我が国においても室町時代に制作された伝狩野元信筆の「朱買臣図」(重要文化財)が有名。
 笹が生い茂り、滝が流れ落ちる山中を歩きながら、ふと何かに気を取られ視線を投げたといった風情の朱買臣。肉高く抑揚のある高彫に時に鋭く削ぐような鏨が入る。裏面は、池に橋が掛かり、楼閣が聳える人間が理想とする世界を表している。 菊地重斯は、陸奥国会津住。また、上杉家の領地である隣国出羽国米澤の地名を冠した作もある。本作はおそらく彼の最高傑作であろう。

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400,000

枝梅図鐔 銘 慶応四辰歳 余月作之 応需中川一的鏨

枝梅図鐔 銘 慶応四辰歳 余月作之 応需中川一的鏨

Itteki

 まだ寒気の残る中、百花に先駆けて咲く梅の花。屈曲して上へ上へと伸びる枝、丸く愛らしい花びら。独特の風情ある線刻は後藤一乗とその高弟一琴が得意とした甲鋤彫りである。抑揚のある耳際の打ち返しも一乗一派独特の形状。微細な石目地が早春の冷気を表している。他に一切の色金を用いない鉄地一色の空間に枝梅が浮かび上がり、記憶の中の馥郁たる香りが呼び覚まされる。一的は美作国(岡山県)津山の金工の名家中川家十代目の四男として生まれた。兄は中川一匠と正阿弥勝義である。兄一匠の縁で後藤一乗門となり、後に中川家十一代を襲い、松平家の抱工となった巧手である。

特別保存

900,000

吉野千本桜図鐔 無銘 加賀

吉野千本桜図鐔 無銘 加賀

Kaga

 秀吉も花見をした吉野桜の歴史は、役行者が桜の木に蔵王権現を刻んだことから御神木とされて桜が植えられたことに始まり、桜樹を体感する習わしが花見になった。その美意識を鐔に表現したのが加賀金工。後藤程乗などが伝統の技術を加賀金工に伝え、後藤家にない華やかさを追求した。漆黒の赤銅魚子地に桜樹を濃密に高彫し、殊に花弁の重なって咲く様子を量感豊かに彫り出し、開いた花には銀の、蕾には金の色絵を加えて色彩の妙を演出、齢を重ねた古樹の姿態も妖艶に表現している。

特別保存

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牛図鐔 銘 知足亭

牛図鐔 銘 知足亭

Chisokutei

 知足亭天常は、肥後金工を代表する志水甚吾門流の一人。剣術に長けた八代藩の武士と考えられており、技量高く師甚吾に紛れる作品を遺している。この鐔が良い例で、色合いに黒みのある山銅地を糸巻形に仕立て、切羽台に比較して耳際の薄い碁石形に肉取りし、鐔の造形を巧みに取り入れて佇む牛を彫り描いている。渋い色調の地面を鋤き込み、大胆な図採りながら、表面には微細な毛彫を加えて繊細な一面を見せている。殊に目の描写が甚吾に通じている。

特別保存

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波龍図鐔 銘 長州萩之住河治友直作 西郷隆盛遺愛龍図鐔

波龍図鐔 銘 長州萩之住河治友直作 西郷隆盛遺愛龍図鐔

Tomonao

 維新三傑の一人西郷隆盛遺愛の龍図鐔。西郷家を継いだ吉之助翁が秘蔵されていたもの。作者は江戸後期の長州鐔工河治友直。
西郷隆盛は無類の刀好きであった。大正五年に本阿弥光遜師が作成した刀剣台帳に鉄扇仕込の村正の短刀他、六十三振の刀剣の記載がある。鐔の記はないが、表題の鐔はその欠を補う貴重な作。
この長州鐔は薩長同盟の際に木戸孝允など長州藩の面々から友誼の証として贈られた作であろうか。堅牢な鉄地に彫り描かれた逆巻く大波の中を泳ぐ龍は鱗を逆立て生気が漲っている。

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松に猛禽図鐔 銘 高瀬栄寿(印)

松に猛禽図鐔 銘 高瀬栄寿(印)

Eiju

 武家の頂点たる将軍を意味する鷹。その老松に翼を休める様子を彫り描いた作。極上の赤銅地を肉厚に地造りし、主題の猛禽と老松を極肉高に彫り出し、苔生した松樹の質感を写実描写、広げた翼の一枚一枚、胸毛の柔らかな様子まで細密に、さらに鋭い爪と嘴を金色絵で印象強く表現している。高瀬栄壽は伊左衛門と称し、水戸金工の出身らしく写実表現を得意とした名人。

特別保存

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無文鍔(鐔)

無文鍔(鐔)

Ko-kacchushi

 一刀一鐔。その刀の為だけに作られ、以後、他のどんな刀にも合わせられていない。そんな気配を全身から匂わせている。大振りで薄手の鉄地は、切羽台から耳に向かって更に肉を落とし、鍛錬によるうねるような肌模様がかすかに伺える。これといった文様の無い、実に単純、素朴な鐔であるが、叩き締めた槌の痕跡と鍛えの跡が玄妙な景色となって見る者を飽きさせない。実用の時代の厳しさと懐の深さを感じさせる。

特別保存

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窓桐透鍔(鐔) 銘 忠重作

窓桐透鍔(鐔) 銘 忠重作

Tadashige(Akasaka school)

 鍛えの良い鉄地は大振りで厚みがあり、耳に向かって僅かに肉を落とす。黒味の強い錆色は落ち着きのある艶を湛え、耳に縞状の鍛えの跡を見せる。禅の思想から発展し、寺院建築や茶室に用いれた円窓。鐔を円窓に見立て、風景を切り取ったこの図は西垣勘四郎が得意としたもので、赤坂鐔工にも踏襲されている。軸をずらした桟を異なる太さで交差させ、画面に変化を与えている。力強い直線に柔らかで有機的な桐の曲線が好対照となり、硬軟絶妙なバランス感覚の実に洒落た作である。忠重は五代忠時の門人。赤坂鐔工の中で四代忠時以降最も技量優れ、作風も幅広く、一門の繁栄に大きな貢献をした。長寿であり、作品も多いが在銘作は意外に少なく貴重である。

特別保存

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萩図鍔(鐔) 無銘 美濃

萩図鍔(鐔) 無銘 美濃

Mino

 後藤風の微細な魚子が撒かれた上質な赤銅地は深い漆黒を表し、手に持つとずっしりと重い。厚く金色絵を施し、垂直に鋤出高彫された萩は、魚子地から浮かび上がるような効果を生みだす。零れんばかりに咲き誇る萩の花を耳にまで濃密な高彫表現とした、華麗で上品な、これぞ美濃彫りという作である。

保存

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蕗葉に蜂図鍔(鐔)銘 出羽秋田住正阿弥傳七(伝七)

蕗葉に蜂図鍔(鐔)銘 出羽秋田住正阿弥傳七(伝七)

Denshichi

 秋田正阿弥の鐔といえば誰しも先ず蕗葉透と倶利彫(ぐりぼり)を思い浮かべるのではないか。秋田正阿弥の始祖傳兵衛によって考案された蕗葉透鐔は葉の表を赤銅、裏を朧銀の昼夜造とした大胆な意匠と緻密で詳細な描写の傑作である。秋田名物の蕗は葉の直径が1.5メートル、茎の丈は長いもので2メートルにもなるという。蕗は音が富貴に通じ縁起が良い。さて、本作はどうであろう。朧銀地と赤銅地の葉を組み合わせ、葉の形なりの変り形である。朧銀地の葉は磨地と石目地仕上げで表裏を描き分け、茎と葉で形作った空間を小柄笄櫃とした洒落た造りである。葉脈は金象嵌。層状になった虫喰い跡が面白い。葉に抱き込まれるように一匹の蜂が高彫されている。摺りへがし風の金象嵌色絵が古調を帯び、翅においては透明感を演出している。ところで、これは本当に蕗であろうか。蓮の可能性はないのか。蓮の別名は「はちす」である。蜂をかけた言葉遊びかもしれない。また、蕗だとしたら、蕗の中国名と漢方の生薬名は「蜂斗菜」というのだそうだ。この名が江戸時代どれほど浸透していたか定かではないが、どちらの葉だとしても蜂に関係があるのは偶然か。傳七に聞いてみたいものだ。正阿弥傳七は伝兵衛、伝内に続く秋田正阿弥派の三代目で、初二代同様秋田藩主佐竹家の藩工として活躍した。江戸へ出府し、晩年の安親の弟子となり四年間修業してもいる。技量、感性共に優れ、「草廬三顧図鐔」を筆頭に数々の傑作を遺している。本作も見れば見るほど味わい深い鐔である。

特別保存

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木賊透図大小鐔 銘 越前住記内作

木賊透図大小鐔 銘 越前住記内作

Kinai

 木賊は、研磨材として用いられたのみならず、止血や下痢止めなどの薬効があることからも広く栽培されていた植物である。装剣具では謡曲の『木賊刈』に取材した安親の鐔で遍く知られており、独特の風情を漂わせていることから越前鐔工も好んで画題に採った。この鐔は、記内各代の中でも技量の頗る高い入記内と呼ばれる工の手になるもの。躍動的な図柄構成で、鉄色黒く光沢強く妙味に溢れている。 

特別保存

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予譲図鐔 銘 明義(花押)

予譲図鐔 銘 明義(花押)

Akiyoshi

 陸奥国岩城の名工明義(あきよし)は河野春明にも学び、山水風の風景図や写実的人物図、風情のある植物図等を得意とした。この鐔は、主君に対する義の為に死んだ中国春秋戦国時代の武人予譲(よじょう)を描いた作。「士は己を知る者のために死す」の句で知られる予譲は、主君の仇討を謀ったが決せず捕えられる。最期の時、敵将の衣服を借りると、その衣服を切り裂いて主君の仇討ちを果たしたとし、自らをその剣で処したのである。この場面を彫り描いた本作は、鍛え良い鉄地に精密な高彫象嵌を施し、予譲の覚悟の表情までも鮮明に表している。 

特別保存

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御幣猿留守模様透鐔

御幣猿留守模様透鐔

Tadanao

 量感のある厚手の地鉄は亀の甲羅を思わせる激しい杢目鍛肌。烏帽子と御幣という御幣猿の持ち物だけを小透とした江戸の粋を感じさせる留守模様。独特の地模様を織りなす杢目鍛に簡潔な小透が映える。忠直は赤坂六代忠時の門人。

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猛虎図鐔 銘 甲子初夏 六十六歳 南山

猛虎図鐔 銘 甲子初夏 六十六歳 南山

Nanzan

 何故かはわからぬが、好んで虎を彫ったという赤文。その弟の南山にも虎図が多い。赤文派の虎には数パターンの特徴がある。大きな体を持て余しているかのような困り顔で毛皮がダブダブした虎などは愛嬌があって眺めていると癒される。翻って本作は、特徴的な南山の虎である。強い輪郭線の内側に細かく毛彫を入れ、姿勢を低くし、盛り上がった肩、太い足はしっかりと岩を掴んでいる。金象嵌の眼光鋭く、開いた口からは鋭い牙と赤い舌が覗く。精悍で敏捷、正に猛虎である。耳を打ち返した薄手の地鉄は鍛え良く、槌目を施して抑揚を付け深山幽谷の雰囲気を醸し出している。

特別保存

280,000

富士の巻狩図鐔 無銘 水戸

富士の巻狩図鐔 無銘 水戸

Mito

 青味を帯びた上質の赤銅磨地の表裏を一連の場面として耳にまで彫刻を施し、詳細な高彫色絵で色彩豊かな立体絵巻物を現出させている。
 彼方に雄大な富士、手前に走る瀬、笹竜胆紋の陣幕。源頼朝による富士の巻狩り図である。巻狩りは軍事訓練でもあった。征夷大将軍となった翌年、後白河法皇の一周忌が明けると、自らの武威を天下に知らしめるため、頼朝は盛んに巻狩りを行った。その中でも殊に有名なのが、「曽我兄弟の仇討」、「仁田四郎の猪退治」とエピソード満載の「富士の巻狩り」である。傘の内、騎乗の貴人は源頼朝。薙刀を手に控えるのは御厨五郎丸、弓を手挟んでいるのは工藤景光であろうか。頼朝の御前に畏まる二人は曽我兄弟であろう。これから始まる悲劇の序章のような一場面である。水戸金工の巧手打越弘寿の作であろう。

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野草に蝶図鐔 銘 行年六十二歳高瀬栄寿〔印銘〕

野草に蝶図鐔 銘 行年六十二歳高瀬栄寿〔印銘〕

Eiju

 辺り一面黄色だったのだろう。菜の花も今は天を突くような鞘の中に実を結んでいる。菜種油の生産、搾油は西日本が盛んであったが、江戸や水戸でも郊外の農村に行けば当たり前に見られた光景であろう。耳に向かってやや肉を落とした四分一石目地は、不定形な縦長の印象的な変り形。水戸出身の高瀬栄壽は、初代赤城軒元孚の門人と伝えられ、後に江戸へ出て一派をなした。和漢の人物や動植物を詳細な高彫色絵で表現するのを得意とした優工である。本作においても揚羽蝶に施された繊細な色絵やアブラナの葉の写実的な描写に高瀬栄寿の卓越した技量が発揮されている。それにしても何故、花ではなく実(種)を描いたのだろうか。聞けるものなら作者に聞いてみたいものである。

特別保存

450,000

竹虎図鐔 無銘 庄内

竹虎図鐔 無銘 庄内

Shonai

 安親の影響が色濃くうかがえる本作は、兄弟弟子の庄内金工在哉の作であろうか。二人は共に珍久の弟子であり安親出府後も生涯を通じて交流を持った。 やや横広がりの安定感のある竪丸形は厚手の鉄地に槌目を打ち施し、大和絵の手法ですやり霞を配し、竹と虎を鋤き出す洒落た構図。裏は龍の存在を暗示する横殴りの雨と雲。耳には金色の覆輪を廻らせ拵装着時の美観を高めている。

特別保存

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雫透点象嵌図鐔 無銘 応仁

雫透点象嵌図鐔 無銘 応仁

Onin

 大振りで薄手、真丸形の造り込み。槌目が残る茎穴の周囲を細い真鍮地の線象嵌で囲み、小透された雫形の周りにも真鍮地の線象嵌が施されている。同心円状に散りばめられた真鍮点象嵌は表裏合わせて380個(数え間違えでなければ)。点(ドット)は最も古い装飾の一つであろう。抽象的な小透と共に時代の上がる雰囲気を伝えている。大振りで小柄笄櫃穴の無い応仁鐔の典型作と言い得よう。

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350,000

月見観瀑図大小鐔 銘 菊川南甫[印]

月見観瀑図大小鐔 銘 菊川南甫[印]

Nanpo

 南甫は清蔵あるいは治兵衛と称し、初め遅塚久則に学んで久英と銘を切り、後に菊川宗吉に師事して技量と感性を高め、菊川を名乗るを許されている。南甫は晩年の号。この大小鐔は李白の詩を題材とした作。小鐔は、酒を友に深山に分け入り廬山の瀑布を眺めた李白が主題。一方大鐔は、「擧頭望山月(頭を挙げて山月を望み) 低頭思故郷(頭を低れて故郷を思ふ)」と詠んだ「静夜思」に取材した図。極上の赤銅地は清く澄んで透明感があり、山水の手法で瀧と遠く霞む月を高彫に金銀の象嵌で精巧に彫り描いている。南甫の得意とした木々の茂る様子など添景の描写も精密で、細かな鏨を打ち込む処方に妙味が感じられる。

特別保存

700,000

信長公伝来 大根透図鐔 無銘

信長公伝来 大根透図鐔 無銘

no sign

 直径十一センチを超える大きな鐔。神仏への奉納という事も考えられる。箱書きによれば、この鐔が製作されたのは天正時代。また、箱書きには、本作が本多忠勝所持の文字透鐔と伯仲の珍品也ともある。箱書きにはさらに「尾張根抜鐔」の記載がある。「根抜」とは最古、最上の焼物、道具類などのことを指す語である。こと唐津焼においては底抜けに古いという意味で、「根抜けの唐津」といえば一番古い手の唐津という事になる。「尾張根抜鐔」とは最も時代の上がる尾張鐔の意味であろう。

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雨龍図鐔 銘 肥州矢上住光広

雨龍図鐔 銘 肥州矢上住光広

Mitsuhiro

 宇宙は八角形を成していると考えられていた。この鐔は、まさに大宇宙を経巡る龍神の姿を巴状の構成で彫り描いたもの。上質の鉄地を彫り込み、地底に石目地を打ち施して龍神の姿を鮮明に浮かび上がらせている。高彫された龍神は、うねるような胴体や宙を掻く手足に力が籠り、八角の宇宙の壁を突き破って現れ出るかのように迫力がある。矢上光広は、鉄地に細やかで動きのある群猿図を濃密に彫り描いた千匹猿図で知られる名工。

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波龍図鐔 銘 長陽萩住人治生友信造 西郷隆盛遺愛龍図鐔

波龍図鐔 銘 長陽萩住人治生友信造 西郷隆盛遺愛龍図鐔

Tomonobu

 維新三傑の一人西郷隆盛遺愛の龍図鐔。西郷家を継いだ吉之助翁が秘蔵されていたもの。作者は江戸後期の長州鐔工治生友信。西郷隆盛は無類の刀好きであった。大正五年に本阿弥光遜師が作成した刀剣台帳に鉄扇仕込の村正の短刀他、六十三振の刀剣の記載がある。鐔の記はないが、表題の鐔はその欠を補う貴重な作。この長州鐔は薩長同盟の際に木戸孝允など長州藩の面々から友誼の証として贈られた作であろうか。堅牢な鉄地に彫り描かれた逆巻く大波の中を泳ぐ龍は鱗を逆立て生気が漲っている。

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