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2022年11月8日 4:29:09
imazu

第五回 西の横綱
【西の井上真改(いのうえしんかい)】
東の虎徹と対角線上にあるのが、西の井上真改(いのうえしんかい)です。
助廣と共に江戸時代前期の大坂を代表する刀工であり、均一に詰んで瑞々しく、潤い感のある小板目鍛えの地鉄には地景(ちけい)と呼ばれる網目状の働きが表れ、刃文はまるで奉書紙(和紙)を裂いたような深い匂口が看取されます。
真改は虎徹、助広に比して、作品上に古刀の趣が一層強く表れます。これは、地鉄に地景が入り、深い匂口を持つ真改独特の作風が郷義弘などの名工の作域を想起させ、作品上に独特の幽玄味が表れているためでしょう。
真改 差表
真改国貞 押形
【深い匂口:ふかいにおいぐち】
この奉書紙を裂いたような深い匂口とは、刃中の形状が良く判らないほどに、刃先にまで「沸:にえ」や「匂におい」が広がっている様子を指します。
写真は真改の押形画像です。
「刃縁:はぶち」を表す線を注意深く観察すると、刃縁(地と刃の境目)のラインが広い部分と狭い部分があるのがお判りいただけると思います。
赤丸で囲んだ部分は「匂」が特に深くなった箇所です。
写真では分かりにくいのですが、刃縁に付いた沸が刃先に向かって徐々に細かな匂いとなって最終的に「刃中:はちゅう」に溶けるように消えております。
この部分のように匂口が深く、刃縁がまるで和紙を割いたように見えるのが真改の刃文の特徴です。
小板目鍛えに地景が入った地鉄と深い匂口の組み合わせこそが真改作品の最大の特徴であり見所といえるでしょう。
虎徹でも同様に良く詰んだ小板目肌が基調となり、これに板目肌が浮かび上がっているのが分かりましたが、真改の場合には「平地:ひらじ」全体が「小板目肌:こいためはだ」で、ここに淡い地景が網目のように入っているのが観察されます。