温かみのある山銅地。銀杏の葉のように広がった耳搔きは深く折れ曲がり、裏側は程よく肉が付いて、紋が高く厚みがある。大らかな雰囲気を湛えた時代笄である。骨太ではあるが、やや長めで中央を引き絞った細い頸が全体をスタイリッシュに見せている。画面いっぱいに交互に展開する丸みを帯びた葉と撓な実。秋から晩秋にかけ紅色の小さな丸い実をつける真葛（さねかずら）である。髪を整える原料にもなったので、美男葛（びなんかずら）という別名を持つ。降り積もった数百年の時の中からうっとり色絵の痕跡が垣間見える。天正拵の製作には欠かせないものである。