三聖吸酸図鍔(鐔) 銘 直丈
Naotake
過剰と思えるほどの装飾だ。点景、背景、装束の文様が色味を変えた金象嵌で隙間を埋め尽くすようにちりばめられている。この作品の主題を装飾に埋もれさせて隠したがっているのではないかと思うほどだ。
大振りの鉄地竪丸形の中央に薄肉彫りで酢の入った大甕を据え、それを囲むように釈迦(仏教)、孔子(儒教)、老子(道教)の三聖人が立っている。何やら楽しそうで、特に中央の釈迦は歯を見せて大笑いしている。「三聖吸酸(さんせいきゅうさん)」または「酢吸三教(すきゅうさんきょう)」と称されるこの図は、誰が舐めても酢は酸っぱいように、教義や宗教が違っても真理は一つであるということをわかりやすく表している。室町時代に中国から伝えられたこの図は禅画で好まれ、後に寺社建築の彫刻にも採られている。裏側は鋤き出された岩の間を清冽な水流が迸る。清らかな水の流れを遠近、高低で奥行きを出した金象嵌の草木が鮮やかに彩っている。
武陽住と銘する直丈は、作品の類例は少ないが、本作の見事な象嵌技術や表情豊かな人物描写を見れば優れた金工であったことがよくわかる。
特別保存
280,000
雪輪に雪花文鍔(鐔) 銘 壽光(花押)
Toshimitsu
極々浅い打ち返し耳によって強調された、溶けかかった雪玉のような変り形。氷柱で覆われ、降り積もった雪の表面には薄肉彫りと高彫象嵌で美しい雪の結晶が描かれている。小柄櫃を縁取るのは雪輪文。江戸時代後期、古賀藩主土井利位(としつら)が雪の結晶を観察し、『雪花図説』にまとめ出版したところ、雪花文様(雪の結晶の文様)が大流行した。装剣小道具も大いにその影響を受け、一乗派や東龍斎派に雪花文を主題とした美しい作品があるが、本作からは凍てついた空気まで伝わってくる。渡辺壽光は東龍斎清壽の門人。風景から人物図まで師風をよく受け継いだ優れた作品を残した。
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菅公留守模様図鍔(鐔) 銘 肥前国住忠行作
Tadayuki
東風吹かば 思い起こせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな 『捨遺和歌集』
海ならず 湛える水の 底までに 清き心は 月ぞ照らさむ 『新古今和歌集』
菅原道真が詠んだ歌二首を象徴する情景を表裏に描いた菅公留守模様図。鍛えの良い鉄地は錆色深く、滑らかな手触り。梅樹の背景に深く、浅く打ち込まれた槌目は霜を置いた土にも、降る雪にも見える。天に向かって伸びる細い枝にはふっくらとした高彫で可憐な梅花が咲き匂い、折れて節くれだった太い幹は高彫に荒々しい鏨運びで老木の肌を表している。裏面は、大宰府へ左遷の途上、備前国児島郡八浜で詠んだとされる「海ならず」の歌の景色。ただ一艘の船が行く先を彼方の月が煌々と照らしている。
忠行 は肥前刀工忠吉の末に連なり、嘉永三年三月日と年紀のある風景図鐔を遺している。
保存
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登龍門図鍔(鐔) 銘 松翠軒美章寫 玉川図
Yoshiaki
鯉が滝を登り切れば龍になるという伝説を表した「登龍門図」は立身出世を祈念する好画題。(萩谷勝平にも同図がある。)大振りの鉄地木瓜形は耳に向かって肉を落とし、銀覆輪が品良く画面を際立たせる。激しく立ち上がる波は生き物のような流動性を見せる高彫。必死の形相で滝に挑む鯉。鱗は密実で、背鰭は繊細に翻る。丸太を重ねた橋は、甲鋤彫りを思わせる細かな鏨運びが見 られ、雲は片切彫と毛彫の併用。広狭、深浅、強弱がはっきりとしたメリハリのある彫法で迫力ある場面を描いている。雲は低く垂れ込め、川面は波立ち、雨が激しく打ち付ける。この川を遡り、次第に狭く激しくなる流れに逆らい、ついには滝を登りきる。鯉は龍となって生まれ故郷の川に恵みの雨をもたらせたのかもしれない。水戸玉川派の美章には一柳友善との合作の龍虎図鐔や仙人図小柄がある。
特別保存
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