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July 10, 2025 at 1:55:50 AM

Imazu
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京の古名刀の再現

(関連リンク)

刀  銘 肥前国忠吉(最上大業物)

美しい地鉄 小糠肌(こぬかはだ)

拡大写真をご覧いただければ一目瞭然、均質に詰んだ小板目肌(板目肌や杢目肌などのような大きく顕著な鍛え目がわからないほどに細かな肌目のこと)に細かな地沸が付いて地鉄には潤い感があります。

その表面を拡大観察すると、地沸の粒がキラキラと輝いているように感じられることから小糠に擬えられ、小糠肌、肥前肌などと呼ばれています。肥前刀の優秀性を表現する言葉の一つです。この小板目鍛えからなる肥前肌は、実は鎌倉時代の山城国来派の地鉄の再現を目指した結果であると考えられています。

初代忠吉
美しい地鉄 小糠肌(こぬかはだ)
二代忠廣
拡大写真をご覧いただければ一目瞭然、均質に詰んだ小板目肌(板目肌や杢目肌などのような大きく顕著な鍛え目がわからないほどに細かな肌目のこと)に細かな地沸が付いて地鉄には潤い感があります。

その表面を拡大観察すると、地沸の粒がキラキラと輝いているように感じられることから小糠に擬えられ、小糠肌、肥前肌などと呼ばれています。肥前刀の優秀性を表現する言葉の一つです。この小板目鍛えからなる肥前肌は、実は鎌倉時代の山城国来派の地鉄の再現を目指した結果であると考えられています。

理想の地鉄を求めて

鎌倉時代中期から後期の山城国京には、来派の他に粟田口派、綾小路派などが活躍していますが、いずれもよく詰んで均質となり、時に潤い感に満ち満ちて絹織物のような質感を呈する小板目肌を基本としています。

地鉄の元となる和鋼は、精錬による違いから鎌倉時代のものと江戸時代初期のものとでは自ずと異なりますが、江戸時代初期の忠吉や忠廣は、自らが為しうる限りを尽くして鎌倉時代の地鉄を再現しようと試みました。写真のような均質な小板目肌はその研究の結果と言えましょう。

二代忠広
鎌倉時代中期から後期の山城国京には、来派の他に粟田口派、綾小路派などが活躍していますが、いずれもよく詰んで均質となり、時に潤い感に満ち満ちて絹織物のような質感を呈する小板目肌を基本としています。

地鉄の元となる和鋼は、精錬による違いから鎌倉時代のものと江戸時代初期のものとでは自ずと異なりますが、江戸時代初期の忠吉や忠廣は、自らが為しうる限りを尽くして鎌倉時代の地鉄を再現しようと試みました。写真のような均質な小板目肌はその研究の結果と言えましょう。
三代忠吉
鎌倉時代中期から後期の山城国京には、来派の他に粟田口派、綾小路派などが活躍していますが、いずれもよく詰んで均質となり、時に潤い感に満ち満ちて絹織物のような質感を呈する小板目肌を基本としています。

地鉄の元となる和鋼は、精錬による違いから鎌倉時代のものと江戸時代初期のものとでは自ずと異なりますが、江戸時代初期の忠吉や忠廣は、自らが為しうる限りを尽くして鎌倉時代の地鉄を再現しようと試みました。写真のような均質な小板目肌はその研究の結果と言えましょう。

敢えて太刀銘に切る

そのように考えると、忠吉や忠廣などが製作したのは刀であるにもかかわらず、刀とは反対側に銘を切った理由も想像されます。

即ち、鎌倉時代の太刀を想定して銘を入れたとも考えられるのです。

さらに、肥前刀の刃文の基本が直刃であることも、鎌倉時代の京物の多くが直刃仕立てであることに関連付けられます。粟田口派、来派、特に来國光の直刃は、身幅のたっぷりとした造り込みを下地に冴えた匂と粒の揃った小沸で美しく映えます。

初代忠吉
天使顔
写真⑤
天使顔

作品鑑賞

再度拡大写真をご覧下さい、写真③は初代忠吉、④は二代忠廣、⑤は三代陸奥守忠吉です。地鉄の質感は、各々に微妙な違いを見せていますが、その基本は緻密な小板目鍛えであることが判るでしょう。刃文は刃境に細かな沸が付いて帯のように元から先まで均質に連続しています。

写真③
天使顔
写真④
天使顔

美しさと切れ味の関係

肥前刀の作品を語る上で、決して忘れてはならないのが、その切れ味です。
切れ味を示す基準として古来用いられていたのが、業物位列という切れ味の順を4段階で表した評定位列です。

この「業物位列」は、須藤五太夫睦済(すどうごだゆうむつずみ)と山田朝右衛門吉睦(よしむつ)が行った試し斬りを拠り所に、柘植方理平助が刀の斬れ味の良否を位付けした切れ味の評定位列です。

評定として「最上大業物:さいじょうおおわざもの」「大業物:おおわざもの」「良業物:よきわざもの」「業物:わざもの」の四つの位列があります。

肥前刀の始祖、初代忠吉は、この業物位列中の最上位に位置する「最上大業物」に評定されています。肥前刀の魅力は、単に美しいだけでなく壮絶な切れ味をも両立している点にあり、それは単に肥前刀の魅力というだけではなく、日本刀の魅力をも体現するものです。

天使顔
天使顔

何故切れる? 肥前刀の謎

最後に、肥前刀の切れ味の理由について考察します。

その切れ味の真の秘密は、刀を鍛えた初代忠吉本人に直接尋ねるほかありませんが、少なくとも肥前刀の特徴である「美しい姿形」「小糠肌(こぬかはだ)と呼ばれる精緻な地鉄」「平肉を抑えた独特の肉置き」の三点が、切れ味に大きく影響していると考えられます。

1 美しい反り

肥前刀の持つ優美な反りは、対象に刀が触れる際、刃が自然と斜めに食い込む構造となっており、滑るように斬り込む動きを可能にします。これは、斬り手の技量や意図に関わらず、刀そのものの形状によって「引き切り」の効果を発揮できることを意味します。まさに、姿形の美しさに切断性能が内包されているのです。

2 小糠肌と地沸(じにえ)

小糠肌と呼ばれる美しい地鉄は、光に照らすと表面にびっしりと微細な地沸が浮かび上がり、その乱反射によって独特の光彩を放ちます。この地沸は、刃文の焼き入れの際に生成される「マルテンサイト(マルティンサイト)」という粒状の結晶構造を持っています。

この結晶構造は、粒子が幾重にも重なって凹凸を成しており、例えるなら表面が「紙やすり」のようになっています。このため、切断の際には摩擦が適度に抑えられ、刃通りが良くなる効果があると考えられています。

3 平肉の抑えと切断応力

さらに、刀の断面における「肉置き」の工夫、すなわち平肉を抑えた造りは、前述の効果と相まって、驚異的な切断力を発揮します。刃と対象物の接触面積が最適化されているため、応力が集中し、スムーズかつ深い切り込みが可能になるのです。

総じて恐ろしいのは、このような圧倒的な切れ味が、美しさの裏に潜んでいるという点でしょう。「美しいものには棘がある」とはまさにこのことで、京の優雅な手弱女(たおやめ)のような外見の奥底に、武士の鋭利な力を秘めた存在――それが肥前刀なのです。

肥前刀が多くの愛好家を惹きつける理由は、まさにその美と機能の融合にあると言えるでしょう。

日本刀専門店 銀座長州屋

​Ginza Choshuya co&ltd

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