源氏物語『浮舟』に取材した作で、宇治に身を隠した浮舟と、それを訪ねあてた匂宮の逢瀬の場面。恋に思い悩む浮舟の姿が、雅やかな中にも哀しさを漂わせて描かれている。静かな夜を表現したものであろう綺麗に揃った赤銅魚子地を背景に、宇治川に漂う小舟と肩を寄せ合う二人の姿が、後藤らしい量感のある高彫に金銀の繊細な色絵とされている。芸術文化に力を注いだ加賀前田家に交代で出仕した覚乗、顕乗、程乗などが加賀(かが)後藤(ごとう)。加賀国らしい華やかさと、後藤家に伝統的な古典美が要所に配されている。　

保存刀装具鑑定書(加賀後藤)