top of page

金銀御幣長采配

 天の岩戸に隠れた天照大神の再生を願う神々は、天の香具山から根引きした榊を岩戸の前に据えて勾玉と八咫鏡、布帛で飾り、白布と青布を垂らした立派な御幣を添えるように携え、天宇受賣命に舞い踊らせ、これを見る神々の歓喜の声を天照大神に届かせたという。記紀神話にも採られているように、天上の神が地上に降りる際に依り代として考えられたのが榊であり御幣であり、またその空域を清浄にするのも御幣であった。
 万物に神が宿ると考える我が国においては、現代でも大地に手を加える建築現場などで安全を願う神事を行っており、神職が携える御幣は神との交信に不可欠な神具の一つとされている。神の依り代である御幣を神そのものとして捉え、御幣そのものに神性を認めて御神体として祀った例も多い。
 表題の御幣は西条松平家旧蔵と伝えられる、長采配の遺例。戦国時代には御幣が図柄として馬標や旗指物にも採られた例があり、神の依り代を手に、あるいは背にして戦場を経巡った武将の決死の活躍が想像されよう。紙垂(しで)は金銀の箔を押して漆で仕上げた多層の仕立て、幣串(へいぐし)(柄)には神の供物に間々用いられる白、赤、黄、青、黒の彩色が施されている。幣串に装着された緒通しの銀金具は、端部が宇宙全天を意味する八角に意匠されているところに、江戸時代の復古思想の在りようを窺わせている。これが収められている櫃は、表面が茶漆塗皺革包みで朱漆仕上げの内面、表に緑色を帯びた黒漆で三ツ葵の定紋が描かれている。櫃にも貫禄と風格があり、家伝の遺物に神威を感じ、大切に後世へ伝えたいと願った武門の意識が現れている。

金銀御幣長采配
bottom of page