蓬莱蒔絵十字紋散刀掛(島津家伝来)

 正月や祝儀の席などに欠かせぬ蓬萊飾りは、我が国の自然観を背景に育まれた長命への願い。蓬萊島に棲み長寿の象徴として遍く知られる鶴と亀は長寿であるが故、「亀鶴の契り」の語が生まれている。
 そんな蓬莱を描いた表題の刀掛は、大名様式からなる刀掛の典型的な遺例であり、要所に丸に十文字紋蒔絵と、同じ紋所を散らした真鍮金具を備えている島津家伝来の逸品。また、本作は婚儀の祝いとして特別な意図をもって製作された作であることが想像される。岩菊は白無垢を着た姫君の象徴であり、地下に根を伸ばして多くの花をつける様は子孫繁栄を意味するものであろう。画題の底に流れる子孫繁栄の切なる願いを背景に、美しい心象風景とされているのである。

蓬莱蒔絵十字紋散刀掛(島津家伝来)