葡萄文螺鈿靭

 狂言に『靱猿』があるように、古くから動物の革を材料とした靱は、軽くて丈夫なことから重宝されていた。靱は矢を収める収納具の一つで矢筒とも呼ばれ、江戸時代には大名行列を彩る格式の高い武具として用いられている。この靱は、総体を厚手の革地に黒漆を塗り施して堅牢さを高めた造り込み。鮮やかな虹色に輝く青貝をふんだんに用い、葉を茂らせ、たわわに実る葡萄を全面に描き表した作。蔓を四方に延ばす葡萄は唐草文と同様に永遠の生命を意味し、甘い果汁を宿す実も滋養のため、あるいは薬とされていた。螺鈿の剥落がなく、これほど健全に保存された靭は極めて稀である。

葡萄文螺鈿靭