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朱買臣図鐔 銘 菊池重斯

 上質な赤銅地を大振りな竪丸形に造り込み、耳にまで微細な魚子を打ち施した入念作。くっきりとした魚子地とそこから浮かび上がる赤銅磨地高彫の対比が面白い。空間構成の巧みさでゆったりと大らかな雰囲気が漂う。
柴を担ぎ歩きながら読書する姿は二宮尊徳を彷彿とさせるが、人物の出で立ちは中国のもの。この人は前漢武帝の時代の官僚朱買臣。生家は貧しかったが読書好きで、五十を過ぎてから役人として登用され、出世と挫折を繰り返し丞相長吏となった。「朱買臣五十富貴」といって大器晩成、立身出世のたとえにされている。我が国においても室町時代に制作された伝狩野元信筆の「朱買臣図」(重要文化財)が有名。
 笹が生い茂り、滝が流れ落ちる山中を歩きながら、ふと何かに気を取られ視線を投げたといった風情の朱買臣。肉高く抑揚のある高彫に時に鋭く削ぐような鏨が入る。裏面は、池に橋が掛かり、楼閣が聳える人間が理想とする世界を表している。 菊地重斯は、陸奥国会津住。また、上杉家の領地である隣国出羽国米澤の地名を冠した作もある。本作はおそらく彼の最高傑作であろう。

朱買臣図鐔 銘 菊池重斯
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