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朝日に梅樹図小柄 銘 中川一勝韜雲謹作之

 香りが情景を思い出させることもあれば、情景が香を呼び覚ますこともある。古木であろうか、先の折れた幹にそれでも健気に花を咲かせている。梅樹の先は水平線か、はたまた塀か、そこから日の光が放射状に射す。清冽な朝の空気の中、馥郁たる香りに誘われ目をやると梅樹の背後から朝日が輝いていた。梅は開いたばかりの朝が一番強く香るという。 裏には金の短冊が象嵌され、芭蕉の句「梅が香に のっと日の出る 山路哉」が刻されている。
 表側の四分一地は二段構成で横一文字の直線の上部は一段低くなっており、細い金線象嵌で朝日を、微細な点刻に金を擦り付けた真砂象嵌で煌めく光の粒子を表している。一段高くなった梅樹の背景はより明るい色味で、梅の香りに満ちた清明な空気を感じさせる。量感のある力強い高彫の幹。ふっくらとした梅花の花蕊は金色絵。小柄側面には金色絵で笹が描かれ、梅の根元は大きく亀裂が入り、洞ができている。傷ついた梅に何か思うところがあったのであろうか。
 一勝は金工として代々津山藩に仕えた名門中川家の生まれで、兄弟には正阿弥勝義、中川一的がいる。父、中川勝継の下で修業し、二十一歳で後藤一乗に入門すると、その三年後、幕府に召し抱えられた師一乗と共に江戸の細工所に移り、兄弟子である一琴、一至と共によく師を助け、腕を磨いた。一勝(一匠)はまた和歌や俳句を好んだという。

朝日に梅樹図小柄 銘 中川一勝韜雲謹作之
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