金工三十七景
1. 霊峰富士へのあこがれ


→目次
銀座長州屋 Web Site



晴風富嶽図小柄
平田道仁

Hirata Donin

 無銘 桃山時代
赤銅磨地金線七宝象嵌高彫象嵌 長さ98ミリ 幅13.5ミリ

 富士山の描法を後世の金工作家に定型化させてしまったかの感のあるこの道仁の代表的な富嶽の図は、均整のとれた美しい富士を右に布置し、左にはなだらかな裾野を描いて空間を大きくとり、雄大な富士の裾野の無限の広がりが表現されている。
 繊密な石目地仕立の表面は光を吸収する艶消し仕上げとされ、漆黒の赤銅の素材に一層の深みがもたらされており、白と青の絶妙な対比をみせる七宝の色合いを嫌が上にも鮮明に浮かび上がらせている。




月下富嶽愛鷹図小柄
平田道仁

Hirata Donin

無銘 桃山時代
赤銅磨地金線七宝象嵌高彫象嵌片切彫 長さ98ミリ 幅14ミリ

 富士山の南東五里ほどの、愛鷹山の麓から眺める暮れ残る富嶽。ふと見やると中空には早くも弓張月が・・・。
 月明かりに照らし出される愛鷹山の岩肌を高彫金象嵌で表わし、富士の三分の一の高さの山頂は白雲、裾野に色付く木々の葉は朱・黄・黒・緑の七宝で表わされ、山あいは最も得意とする澄明な青色、銀一色で表わされた遥か彼方の富士山と対照的な色使いがされている。


松原富嶽図小柄
平田道仁

Hirata Donin

無銘 桃山時代
赤銅磨地金線七宝象嵌高彫象嵌 長さ96ミリ 幅14.5ミリ
 松原越しに眺める富士のいただきには純白の雪、中腹には爽やかな雲がたなびき、長く広がる裾野は新緑の木々で覆われ、のどかな初夏の富士の様子が叙情的に描かれている。
 三保の松原にしては富士にあまりにも近すぎる松並木の、皮肌は赤く、松葉の緑は濃く、枝振りはたわわにまっすぐにそびえ立つ。
 色濃く、そして深みのある七宝の緑によって、山恋しく、水なつかしい若葉の季節が印象深く表現されている。


雲中富嶽図小柄
平田道仁

Hirata Donin

無銘 桃山時代
赤銅磨地金線七宝象嵌 長さ97ミリ 幅14.5ミリ
 沸き立つ乱雲を金線象嵌で表わし、雲間に現われる富嶽を常よりも細く高く変形に表現して芸術的効果を高め、抽象化された山頂の雪と麓の木々には、乳白色と青色の七宝を嵌入した、道仁の新しい試みによる構図と手法。
 深く落ち着いた色調の赤銅の地金から清新な配色の富士が立体的に浮かび上がり、雲の一瞬の切れ目から垣間見る富士の様子が絶妙な技法で描かれている。


富嶽三保図小柄
平田重賢

Hirata Shigeyoshi



銘 重賢作 平田春就(花押)
江戸時代中期 赤銅磨地金線七宝象嵌 長さ96ミリ 幅13.5ミリ
 青味を帯びた極上質の赤銅の素材を磨地仕立てとし、初祖道仁以来、厳重な一子相伝の掟によって敬称された七宝象嵌の技法を駆使した、平田四代重賢の富嶽図。
 遠くに望む三保の松原を赤・茶・緑の七宝象嵌で表わし、眼前に聳える霊峰富士を洗練味ある七宝象嵌にて高彫据紋とし、その要所に金線を象嵌し、端正な富士を鮮明に浮かび上がらせた手法は初代の作風を継承して見事であり、白・青の七宝の透明度はむしろ初代のそれを凌ぎ、図像の輪郭の線もまたさらに明瞭。雅趣の点で初代に一歩譲るとも、素材の選択かと象嵌技術においては、これに一歩もひけをとらない高い技術水準が示されている。



著作 深海 信彦   企画 株式会社銀座長州屋
掲載の記事および写真の無断使用とコピーを禁止します。ご利用を希望の場合にはご相談ください。Copyright 株式会社銀座長州屋 深海信彦 ©Fukami Nobuhiko 2009.